【HBR CASE STUDY】

[コメンテーター]
クリストファー J. マコーミック
(Christopher J. McCormick)L. L. ビーン 社長兼CEO
ハウケ・モジェ(Hauke Moje)ローランド・ベルガー・ストラテジー・コンサルタンツ パートナー
ラルフ・ビガダイク(Ralph Biggadike)コロンビア・ビジネススクール 教授
ポール・ドモースキー(Paul Domorski)アビヤ バイス・プレジデント

[ケース・ライター]
デイビッド A. ガービン
(David A. Garvin)ハーバード・ビジネススクール 教授

*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。

判断ミスの連続

 1月の凍てついた空がミネアポリスを灰色に染め、夜明けを告げようとしている。ちょうどその矢先、ドン・リフキンは目を覚ました。「枕をかぶって、もっと眠っていたい」。体じゅうの細胞がそう叫んでいた。

 しかし、目覚まし時計が追い打ちをかけた。リフキンは、目覚ましのボタンを乱暴に叩き、トルコ製のぶかぶかのバスローブを羽織ると、妻を起こさないようにそっと寝室を出て、静かにドアを閉めた。そろりそろりとキッチンに向かい、コーヒー・メーカーのスイッチを入れる。

 台所の椅子に腰を下ろすと、寝ぼけ眼でラップトップPCを起動させ、いつもの株関連チャットに目を通し始めた。送信者リストを見ていると、赤い感嘆符に目がとまった。送信者はスタン、見出しは「悪い知らせ!」。内容を読んで、思わず息を飲んだ。

「ウォリー・カミングズがディペンシットを辞めたのはご存じですか。彼の学歴詐称が発覚したのです。カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得したというのは真っ赤な嘘でした。これが世間に知れると、株価はいっきに落ち込むでしょう」

 リフキンはちょっと気分が悪くなった。1年前、彼が経営するニュートロリムはディペンシット株を一部購入していた。リフキンは「何となく、うさん臭いと思っていたんだよ」と一人言をつぶやいた。