【HBR CASE STUDY】

[コメンテーター]
M. エリック・ジョンソン
(M. Eric Johnson)ダートマス・タック・スクール・オブ・ビジネス 教授
ホルスト・ブランドスタター(Horst Brandstätter)ジオブラ・ブランドスタター オーナー
ウォレン H. ハウスマン(Warren H. Hausman)スタンフォード大学 マネジメント・サイエンス・アンド・エンジニアリング学部 教授
アン・オムロッド(Anne Omrod)ジョン・ゴールト・ソリューションズ CEO

[ケース・ライター]
エリック・マクナルティ
(Eric McNulty)ハーバード・ビジネススクール・パブリッシング マネージング・ディレクター

*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。

クリスマスに向けたラスト・スパート

 凍てつく風が吹き荒れる12月間近のある朝。ノースポール・ワークショップのだだっ広い敷地にあるレンガづくりの建物は綿毛のような雪に包まれ、吹きすさぶ風に鉛色の空へと舞い上がる。その建物からかすかに漏れる柔らかな光と規則的な機械音が、なかでは作業が行われていることを知らせている。

 第1ビルと第2ビルは、ノースポールの郵便施設である。そこでは、子どもたちから送られてきたサンタクロース宛ての手紙が仕分けされ、差出人の1年間の動向を追跡記録するデータベースと照合される。

 第3ビルでは、ボード・ゲームやエレクター・セットが鈍い光を放つ金属装置によって運送用パレットまで運ばれ、クリスマス・イブの配達に向けて収縮梱包される。外壁に並ぶ窓には赤い花飾りが吊されているものの、せわしなく働いている妖精(エルフ)たちはだれ一人としてそのようなお祭りムードなど目に入っていない。

 これら妖精たちに混じって、赤い衣装をまとって歩く恰幅のよい男の姿があった。その男は作業現場で忙しそうに動き回る妖精たちに笑顔を向けながら手を振り、妖精たちもそれに応じた。クリスマスまでちょうど5週間、生産現場はフル稼働だ。鋭いクラクションに驚いて、その男が振り向くと、箱をうずたかく積んだフォークリフトが近づいてきた。

「驚かせてすみません。1分も無駄にできないもので」。フォークリフトを運転する妖精が声をかけた。