天然資源の開発から
才能に投資する時代へ

 1997年、ロベルト・ゴイズエタが、がんのために65歳で亡くなった。その時点で、彼は億万長者だった。10代でアメリカに渡ったキューバからの亡命者としては、悪くないほうである。アメリカ移住者で億万長者になった人物は彼が初めて、ということはまったくない。だが他の億万長者になった移住者は皆、起業して会社を育て、場合によっては株式公開でその財産を築き上げている。一方、ゴイズエタはコカ・コーラのCEOに就任することで財産を築いたのである。

 彼の場合、タイミングが完璧だった。1980年にゴイズエタがCEOに就いたのは、天然資源を何も持たず、貴重な物的資本をわずかに持つだけの会社だ。その時期はちょうど、才能ある人材が経済の主役となる「タレント・エコノミー」の時代が始まったばかりである。タレント・エコノミーの中核を成す、生産資産への報酬体系に画期的な変化が訪れた頃だ。それは、ゴイズエタにとって追い風となる変化であった。

 彼の会社は、その象徴的なブランドと、それを築き守ってきたタレントのおかげで、世界で最も価値のある企業の一つになっていた。ゴイズエタはそのようなタレントの典型例であり、投資家はかつてないほどの金額で報いるようになっていたのである。