社会貢献事業が直面する
厳しい現実

 多国籍企業の多くはこの10年間、低所得層の差し迫ったニーズを解決して利益を出そうと試みてきたが、物足りない結果に終わってきた。社会的使命にかられて難しいプロジェクトに楽観的に乗り出しては、消費者の需要の弱さや、劣悪な道路事情などのせいで売上高が伸びず、コストがかさむことに驚くばかりだった。手を伸ばしすぎて幻滅した結果、多くの企業が方針を変え、収支の合う社会投資として事業を再編するのだが、そうなると小規模のままで甘んじるしかない。

 経済ピラミッドの底辺にいる年収1500ドル以下の人々は40億人以上に上るが、こうしたBOP(bottom of the pyramid)層を対象とする新規事業では、利益を出すことが決定的に重要だ。CSR(企業の社会的責任)プロジェクトに比べて、営利目的の事業は規模と影響力を拡大させるチャンスがある。リソースを投入でき、本社と現地支社の双方から継続的な支援も確保されている。

 BOP層に物を売って儲けを出すのは難しいが、不可能ではない。企業はビジネスの基礎に立ち返り、BOP市場における2つの重要課題を完全に理解したうえで新規事業を始める必要がある。すなわち、消費者行動を変え、製品を生産し届ける方法を変えることだ。この2つのハードルを甘く見ていると、リソース、イノベーションの可能性、必要な時間などを見誤り、プロジェクトチームはタスク達成に向けて準備不足に終わってしまう。