ティースはそれを次の3点から成る変化対応的な自己変革能力だという。
センシング:海外の異質な環境を適切に認識する能力
シージング:異質な環境で自社の資源・能力を再構成、再配置して対応する能力
トランスフォーミング:絶えず変革し続ける能力
自社内部のみならず地場企業を巻き込んで、資源・能力を再構築してオーケストレーションする能力と言い換えてもよい。
1980年代、多くの日本企業が急速な円高を利用してアジア諸国に進出した。だが当時、アジア各地には日本製品に対応しうる良質の材料や部品のサプライヤーが存在しなかった。
そこで日本企業は、良質の材料や部品を日本から持ち込んだり、アジア各地に点在する優れた材料、部品、金型企業群との取引をネットワーク化したりした。さらに、地場企業群を育成し、より効率的に交渉取引するための地場企業によるサプライチェーン構築などでオーケストレーションを促進する日本企業もあった。
このような変化対応的な自己変革能力がダイナミック・ケイパビリティであり、これに適切な方向性を与えるのは戦略だ。
どのような顧客を対象に、どのような製品を製造し、どのようにして競争業者を阻止するかを明示する戦略があればこそ、海外での企業が進むべき道が開かれる。

だがティースは、このような戦略とダイナミック・ケイパビリティは、相互に関係しているものの基本的に区別される概念であると言う。
その論拠について、グローバル経営を展開するYKKの例で説明してみよう。