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経営知識が通用しない時
人がビジネスについて研究する目的は、学ぶべきことを抽出して形を与え、解きたいパズルに適用するためだ。経営者であれ学者であれ、それは同じである。人はそれゆえにビジネススクールに通ったり、ケーススタディを記述して分析のためのフレームワークを開発したり、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌を読んだりする。そうすることの重要性を筆者も固く信じてきたからこそ、これまでさまざまな国や地域のビジネスを研究してきた。
しかし、筆者のたどりついた結論を聞けば読者は驚くかもしれない。大方の意に反するかもしれないが、特定の経営手法を異なる国や地域に一様に当てはめようとするのは愚かな行為なのだ。もちろん、世界的に普遍とまではいかないが広く支持されている経営目標はたくさんある。たとえば、「価値の創出」と「人材のモチベーション向上」が経営の核となることは、多くの起業家や経営者が認めるところだ。
ただし、それぞれの話をよく聞いてみると、何をもって価値とするのか、どうやってモチベーションを上げるのかについて違いが浮き彫りになる。なぜなら地域によって、事情があまりにも異なるからだ。その違いは経済発展の度合いだけでなく、組織の性質、地理的特徴、教育環境、言語、文化などに及び、容易に体系化できるものではない。経営学の受講者たちは最初のうち、たとえば製造におけるベストプラクティスは十分に確立されているので、地域の事情に合わせてプロセスに少し手を加える程度でよいと考える。ところが、結局は抜本的な変更が必要となることが多い。それは間違った技術を用いているからではない。その技術を活かせるかどうかは、周囲を取り巻くさまざまな要素によって左右されるからだ。