多様な顔を持つ消費者たち

 消費者の言動はなぜ一致しないのだろうか。家電メーカー、エレクトロラックスの経験を考えてみよう。同社はかつて、顧客の意見をもとに、洗濯機を無償で提供し、内蔵されたスマート技術を活用して洗濯のたびに課金するサービスを検討した。

 発売前の調査では、消費者はいくつかの理由でこのアイデアを歓迎した。洗濯機の初期購入費が不要であり、エネルギー消費量も少なくて済む。しかも、無償でアップグレードでき、搭載された診断機能のおかげで従来よりも修理が迅速かつ的確にできる。これは間違いなく、洗濯の未来形だった。ところが、スウェーデンでテスト販売をしてみると、無料の洗濯機にはさっぱり需要がなく、このプロジェクトは棚上げとなってしまった。

 多くのマーケターはこうした教訓めいた話は、消費者の仮定の意思決定と実際の意思決定を比べると、どうなるかを述べているにすぎないと考える。それにも一理あるが、ここでは別の要因も作用している。それは社会的アイデンティティである。