『論語』の魅力は、孔子の教えや儒教の教条を羅列した経典としての価値だけにあるのではない。絶対概念としての「君子」という理想型を求める孔子と、それぞれ個性の異なる弟子たちとが繰り広げる人間劇としてのおもしろさをも秘めている。しかも、彼らが求めるものは現実には存在しない。それゆえに、孔子と弟子たちとの間で交わされる問答は、悲壮で滑稽ですらあるのだ。