多くのマス・マーケット(1)において、企業が苦境に立たされている。というのは、顧客が、かつてないほどの迅速なオーダー対応を要求する一方で、同時に、顧客別に特別にカスタマイズされた商品やサービスの提供を要求しているからである。

 そもそも、特別なカスタマイズを施さないにしても、顧客のオーダーに対して迅速に、しかもあまり費用をかけずに対応することは大変難しいのである。はたして、マス・カスタマイズを実現しながら、迅速なオーダー対応とコスト削減を同時に達成することは可能なのであろうか。

 ヒューレット・パッカード(HP)は、これまでプリンタ、コンピュータ、医療機器を含むさまざまなビジネスにおいて前記のようなプレッシャーに直面してきた。そして同社は、低コストで、カスタマイズされた製品を迅速に顧客に提供することが実際に可能であることを見事に証明したのである。

 もちろん、アパレル業界、塗料業界、家電業界等においてもHPと同様の成功を収めた企業はある。彼らは製品の種類を格段に増加させ、オーダーへの対応時間を大幅に縮小し、そして同時にコスト削減に成功した。しかし、そういった企業の陰には、商品のマス・カスタマイズには成功したものの、コストが爆発的に増大してしまったという企業が多数存在していることも事実である。

 製品のマス・カスタマイズを効果的に実施するためのキーポイントは、製品を顧客別に区別化する工程を、サプライ・ネットワーク(企業の供給、製造、流通チェーン)の中で可能なかぎりあとの段階で実施することであるといえる。すなわち、マス・カスタマイゼーションに対応するためには、個別対処的なアプローチではなく、製品デザイン、製造および物流工程、そしてサプライ・ネットワーク全体のあり方を総合的に考え直す必要があるのだ。企業は、このように全体の視点から包括的なアプローチをとることによって初めて、最高の能率で業務を遂行することが可能となるとともに、最小限の在庫しか持たなくとも顧客のオーダーに迅速に対応することができるようになるのである。

 効果的なマス・カスタマイゼーションを具現化するためには、以下の「モジュール化(2)デザインの三原則」がその基盤となる。

製品デザインのモジュール化

 各製品は、独立したモジュールから成るようにデザインし、他の製品に対しても、それらを利用することによって安価に、かつ簡単に製造ができるようにすべきである。

製造工程デザインのモジュール化

 製造工程は、独立したモジュールから成るようにデザインし、異なった流通ネットワークに対しても、それらを並び替えることによって容易に対応できるようにすべきである。

サプライ・ネットワーク・デザインのモジュール化

 サプライ・ネットワーク(すなわち在庫の配置、および製造・流通設備の場所、数、構成)については、次の2つの能力を確保できるようにデザインすべきである。一つは、標準製品を、カスタマイズを行う施設まで安価に輸送できる能力であり、もう一つは、個々の顧客からのオーダーに対して、カスタマイズした完成品を迅速に配達するための柔軟性と敏感な対応能力である。

 以下では、この三原則のそれぞれについて、事例を交えながら説明してみよう。