-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
【HBR CASE STUDY】
[コメンテーター]
アルストン・ガードナー(Alston Gardner)ノースカロライナ大学 ケナン=フラグラー・ビジネススクール 講師
スティーブ・カー(Steve Kerr)ゴールドマン・サックス マネージング・ディレクター兼CLO
ランダル D. ケリー(Randall D. Kelley)スペンサー・スチュワート パートナー
アンドレア L. ディクソン(Andrea L. Dixon)シンシナティ大学 准教授
[ケース・ライター]
フランク V. セスペデス(Frank V. Cespedes)センター・フォー・エグゼクティブ・ディベロップメント マネージング・パートナー
*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。
取締役会の尋問
長い取締役会がようやく終わり、ビル・マクラウドは胸をなで下ろした。カリフォルニア州マウンテンビューに本社を置くフュージリア・テクノロジーズのCEOを務めて6年目になるが、今日の会議はいままででいちばんしんどいものだった。とはいえ、チェース・ダイナミクスという大口顧客を失った原因の追及という、重要な議案があったのだから無理もなかった。
ガソリンスタンド・チェーンのチェースは重要なロイヤル・カスタマーの一つで、今回の案件は、最新技術を駆使して23カ国を網羅するチェースのITネットワークのセキュリティを高め、コミュニケーションの双方向性を向上させるという4000万ドル規模のものだった。
今日の取締役会では、チェース担当の営業部長、エレナ・ゴンザレスが呼ばれた。彼女は社内きっての一流営業担当者だが、この会議の間は、およそそのような人物には見えなかった。エド・ゾルシァンをはじめ、何人かの取締役たちがゴンザレスに詰め寄ると、彼女の顔は次第に狼狽の表情へと変わっていった。
ゾルシァンは、シリコン・デバイスとデキシメーションという2大企業を育て上げた、シリコンバレーでは伝説的な人物であり、彼から厳しい口調で詰問されれば、怖気づくのも無理はなかった。
また、だれでもそうだが、ゴンザレスも尋問されることに慣れていなかった。何しろゴンザレスの営業チームは素晴らしい成績を残してきており、これまで大口の取引先を失うという不運とは無縁だった。ITバブルが終わり、ここ5年間、同社の売上げは頭打ちという現在にあって、会社にしても彼女にしても、チェースという得意先を失ったことは大きな痛手だった。
ほかにも、まだ心配の種はあった。フュージリアの主要製品は長年にわたって市場リーダーの座にあったが、いまやその優位にもかげりが表れ始めており、価格競争に巻き込まれるケースが多くなった。