供給者の論理から、生活者の論理への発想転換を
――不動産に対して、そういう評価の仕方をしている国はあるのですか。
アメリカにはあります。アメリカの住宅市場というと、サブプライム・ローンのことがすぐに浮かんで悪いイメージが定着してしまっていますが、プロパティ・インプルーブメントをきちんと評価して不動産価格に反映するシステムが、アメリカにはあります。
実際、みな古い中古住宅にさまざまに手を加えて、自分好みの家にして住んでいますよね。それに伴い、間取りを変えたり、内装を変えたり、水回りを変えたりする、リフォーム・ビジネスが大きくすそ野を広げています。建材に関しても、新築だけが建材需要を喚起するわけではないことが、アメリカの住宅産業からわかります。
現在、アメリカの中古住宅市場は600万戸以上あるといわれていますから結構な規模の市場です。
――二次市場(中古住宅)の拡充は、住宅産業全体を活性化する可能性があるということですね。
そういうことです。日本ではわずか数十万戸だといわれていますから、ビジネスのすそ野も広がりようがありません。
しかも興味深いことに、アメリカでは、そういう中古住宅の流通に関わっているのは、主婦なんです。なぜだかわかりますか。
――わかりません(笑)。
中古住宅を買うということは、その建物(ハードウエア)を買うことではありません。その住宅のあるコミュニティがどういうコミュニティなのか、安全なのか、住んでいる人々はどういう人か、地元の学校のレベルは高いのか、買い物は便利か、交通の便はいいのか、緑は多いか……そういうことをすべてひっくるめて判断して、ここに住もう、この住宅を買おう、となるわけです。
ということは、売買に関わる側の人は、お客さんからのそれらの質問にすらすらと説得力をもって答えられる人、つまりそのコミュニティについて徹底的に詳しい人ではなければ務まりません。これが、中古住宅市場のユニークな側面で、日本人にはそういう感覚が備わっていません。新築だけを売っていたのでは、決して身につけられない感覚です。
二次市場の発展の条件とは何か
日本では、そうした二次市場を、政府がきちんとつくらせていないのです。そのことが、経済を低迷させています。二次市場が最も発達している国はアメリカです。あらゆるものの二次市場が成立しています。もちろん悪い面もありますよ。ライフルなど銃器はほとんどが二次市場で売買されています。銃器取締法をつくっても、実際には効力を発揮できていません。つまり、政府がコントロールできないのです。
その意味では、日本政府も、自分たちがコントロールできないと困るという理由から、二次市場ができるのを押さえ込んでいる面があるのではないでしょうか。しかし、住宅は銃器とは違います。住宅に関しては、闇の部分に目を向ける必要はありません。むしろ、経済の活性化のためにやらなければならないのです。
――二次市場ができると、実際にどのような変化が起きると予測されますか。
まず、一次市場と二次市場で理論値に乖離が起こればアービトラージが起きて、一次市場での住宅価格が適正に調整されます。
ちょっと話が住宅からはずれますが、一次市場より二次市場のほうが値段が高いものが稀にあります。何かわかりますか。
――アマゾンでは、長く在庫切れしているような商品は、マーケットプレイスで新品価格より高い値段がついていたりします。そういう類のものでしょうか。
その象徴がフェラーリです。フェラーリは、生産台数を抑えていますから、年間約7000台だそうです。そのため、新車を注文しても売ってもらえないこともあります。そういう場合、いま欲しい、いま乗りたいという人は、二次市場で調達します。場合によっては、新車より高額になるかもしれません。それでも、いま欲しい人は購入するでしょう。
二次市場を作るうえで重要なのは、プライシングの適正さです。プライシングには非常に高度な能力と感覚が求められます。これは、住宅に限ったことではありません。日本企業がおしなべてプライシングが下手だという問題があります。なぜプライシングが下手かというと、マーケティング能力の欠如があります。これは30年間の経営コンサルタント経験からまさにいえることです。
また、二次市場は付随ビジネスを生んでいきます。典型的な例が、インターネットです。インターネットは、まさにこの二次市場での取引コスト低減と利便性の向上のために使われ、発展したのです。