企業成長を阻む組織の複雑性

 大規模な組織はそもそも複雑なものとはいえ、歳月と共に環境が変化することで、ビジネスを体系化し、運営する方法はよりいっそう複雑さを増している。グローバル化、新技術、サーベンス・オクスリー法など、さまざまな新しい事業課題に取り組んだ結果、ますますガバナンスが機能しなくなり、組織は肥大化し、業績も低下している。

 多くの企業が、業績よりも、入り組んだ迷路を通過することに、より多くのエネルギーを費やしている。アカウンタビリティ(結果への説明責任)は不明瞭、意思決定権はあいまい、どのように情報を活用すべきか、具体的なアイデアもないまま、いたずらにデータの分析を繰り返している。

 ここで、ある消費財メーカーを取り上げよう。年商140億ドル、100を超えるブランドを抱える一方、フード・サービス事業や業務用食材事業、さらに穀物などの商品取引にも手を伸ばしていたが、全社共通の業績管理システムがない。

 同社のような場合、ブランドや事業部門の業績と個人業績を、どのように相対評価すればよいのだろうか。どこに経営の力点を置き、何を投資家や証券アナリストに報告すればよいのだろうか。

 ゲイリー・ロドキンは2005年10月、北米最大手の食品メーカーであるコンアグラ・フーズのCEOに就任したが、そこで直面したのが、まさしくこのような状況だった。

 同社はばらばらな組織で、これは1970年代の成長戦略が大成功を収めたことによる結果だった。その当時、クリームの〈レディウィップ〉、タマゴの冷凍食品〈エッグ・ビーターズ〉、イタリアン・スナックの〈シェフ・ボヤーディ〉、フランクフルトの〈ヘブルー・ナショナル〉などの有名ブランドを相次いで買収したが、買収後もこれまでどおり、それぞれに好きにやらせていた。

 ロドキンがコンアグラの経営陣に加わった時には、このやり方はもはや立ちゆかなくなっていた。業績は実際、頭打ちになっていた。顧客はどれがコンアグラの本当の顔なのかがわからず、また社員たちはコミュニケーション不足と部門内競争に不満を抱いていた。証券アナリストたちははっきりした財務報告を要求し、投資家たちはさまざまな機能が重複していることに不満だった。

 しかし、組織がばらばらゆえに、共通の制度、データ、プロセスがなく、このような要求に応えることができなかった。ロドキンはそこで、「シンプル化」を最優先課題の一つとし、事業上の必須目標として掲げた。そのうえで、組織から複雑性を排除するために、一連のイニシアティブに投資した。その結果、顧客にも社員にもわかりやすくなったうえに、数百万ドルのコストが節約された。