オフィスを持たない会社

 オートマティックの従業員230人(原稿執筆時。現在は500人超)は、世界中の都市170カ所に散らばって仕事をしている。サンフランシスコに構えた拠点は協業ワーキングスペースのような趣で、従業員の大半は、めいめいの場所で仕事をしている。なかには、あちこちに移動しながら仕事をするノマドワーカーもいる。

 このような勤務形態は、悲惨な状況を誘発すると思われるかもしれない。生産性が低く、人材管理が行き届かないために従業員につけ入るすきを与えるのではないか、というわけだ。しかし、オートマティックは収益性が高く、急成長している。カギを握るのは、「トライアウト」方式の人材選考である。つまり、採用候補者に実際の仕事を割り振り、現場の人間関係の中で働いてもらって採用者を決定するのだ。これによって優秀な人材を確保できるだけでなく、優れた従業員をずっと長くつなぎ止められる。なおかつ、解雇者や離職者を減らすこともできるのだ。

一般的な勤務制度の問題点

 オートマティックの勤務形態は、仕事に対する我々の考え方から始まったものである。私が知る限り、ほとんどの企業の従業員は仕事をしているように見せかけているにすぎない。朝きちんとした身なりで出勤し、デスクで酔い潰れていたり居眠りしたりしていなければ、仕事をしていると見なされる。スプレッドシートと「ToDoリスト」を作成してさえいれば、仕事熱心だと評価される。しかし、残念ながらいずれも、勤務時間中に従業員が実際に生み出した価値を反映していない。デスクの前に8時間座って書類を処理し、メールを送っていても何の結果も出せないことはある(悲しいことに、それは珍しいことではない)。