リーダーが陥りやすい
権力のパラドックス

 私が過去20年にわたって続けてきた行動学の研究から、気がかりなパターンが浮かび上がった。人は通常、共感、協働、偏見のなさ、公平さ、分かち合いなど、他者の利益を増進させる特性や行動によって権力を得る。しかし自分には力があると感じたり、特権的な立場を享受したりし始めると、こうした資質は影を潜めるようになる。権力を持った人間は、そうでない人よりも無礼で、身勝手かつ倫理にもとる行動を取りやすい。19世紀の歴史家で政治家でもあったジョン・アクトン卿が喝破した通り、まさしく「権力は腐敗する」のである。

 私はこの現象を「権力のパラドックス」と呼んでいる。私は大学、米上院、プロスポーツチームなど、さまざまなプロフェッショナルが働く職場で研究を行ってきた。各ケースで観察されたのは、人は自己の長所を土台にして出世するが、立場が上になればなるほど、たちの悪い行動を取るようになることだ。この変化は驚くほど急激に起こりうる。

 私の実験の一つに、「クッキーモンスター」というものがある。その実験では、研究所に来た人に3人一組になってもらい、その中で無作為に選んだ一人をリーダー役に指名する。そしてグループで文書を作成するという課題を与える。作業開始から30分経ったところで、焼き立てのクッキーをグループに出す。皿の上には1人1枚、そして余分にもう1枚載っている。実験したどのグループでも、皆1枚取った後は遠慮するので、皿の上には1枚のクッキーが残る。