アイデンティティの再定義には
過去の成功要因の再考も
──5つの行動様式それぞれに難しさがあり、一貫性をもってそれらを実行するとなるとさらにハードルが高まると感じます。
5つの行動様式の第1「自社の独自性を貫く」は、すべての基礎となる最も重要な行動様式であり、これを社員全員が理解し、独自性をさらに強化していくためには、第2の「戦略を日常業務に落とし込む」ことが必要になります。第1の自社の独自性があるからこそ、第2で達成したい目標に意味が生まれるという点で、この2つの行動様式はセットとして考えられます。
第1「自社の独自性を貫く」はどの活動にも非常に重要な視点ですが、いったいどう認識したらよいのか戸惑う声も多く聞かれます。
アイデンティティを再定義する入口としては、自社をケーススタディしてみるのも一つの方法です。過去の歴史のなかで自社が伸びている時代、組織全体に高揚感があった時代をケースとして取り上げ、成功要因を客観的に分析します。具体性を少しずつ削ぎ落とし、抽象化、普遍化するなかで、自社の独自性が見えてくるのではないでしょうか。
この抽象化、普遍化の作業は経験がないとなかなか難しいものですが、社内に必ず得意な人は存在するはずですし、私たちも外部の専門家としてお役に立てると思います。
第2の「戦略を日常業務に落とし込む」で気をつけたいのは、開発、生産、販売といった機能別に異なる解釈で戦略を日常業務に落とし込んでいくと、全体としては戦略と実行にズレが生じる危険性があることです。部分最適をつなぎ合わせても、必ずしも全体最適とはなりません。全体最適の視点からバランスやコヒーレンス(共通性、一貫性)を絶えずチェックする必要があります。
日本企業が戦略と実行をうまく結びつけられないのは、「組織が重い」ことも一つの要因です。人材の流動性の低さがこの「重さ」を生じさせており、重いがゆえに動きが鈍くなっています。この重さは「組織文化」と言い換えることもできます。重い組織を動かすには、その組織文化を逆手にとって活用することです(第3「自社の組織文化を活用する」)。文化を使って、お互いに理解できる言葉で話し、一緒に考えていくことが大事です。それによって、周囲の環境に惑わされることなく、自信と確信をもって実行できるようになるでしょう。