マーケット・デザインとは何か

 伝統的な経済学では、需要と供給は市場によって調整されると考えられている。しかし、経済学の新たな領域に「マーケット・デザイン」という考え方がある。これによれば、市場はルールに従うという。

 たとえば、株式市場にも労働市場にも需要と供給が作用しているが、株式取引とリクルーティングではプロセスが異なる。また、労働市場だけ見ても、けっして一様ではない。医師、弁護士、プロ野球選手、ビジネススクールの卒業生など、その採用方法は異なる。

 マーケットをデザインするには、市場にプラスあるいはマイナスの影響を及ぼす、市場の相違点、ルール、プロセスを理解しなければならない。それもこれも、もしその市場に欠陥があれば、それを修復し、また機能不全に陥りつつあるならば、一からつくり直すために、その市場の力学や要件について知っておくためである。

 マーケット・デザインはすでに、腎臓移植、研修医の採用、通学校の指定プログラム、無線周波数帯のオークションなどに導入されている。今後は、オンライン就職市場や空港離発着枠の割り当てなど、うまく機能しない可能性があり、この新しい知見によって調整されるべき市場にも適用されることだろう。

 マーケット・デザインという新分野は、経済学における2つの発達の賜物である。一つはゲーム理論で、これはゲームのルール、ならびにこれらのルールゆえに引き起こされる戦略行動に関する研究である。1990年代には、実践的な指針を提供できるほどの完成度を見た。

 もう一つは、実験経済学[注1]という新たな方法論である。これは、ゲーム理論による予測を検証し、その信頼度を確認するツールとして、またマーケット・デザインを実際の市場に導入する前に検証するツールとして寄与した。

 マーケット・デザインの主たる目的は、市場の失敗に対処することである。市場がしかるべく機能するためには、次の3つの条件が必要になる。

(1)市場参加者の増加:潜在的な買い手と売り手が十分存在し、またその数が釣り合っており、その結果、一定量の取引が成立する。