ビジネス現場で多用される
ストレッチ目標

 2012年7月、ヤフーはマリッサ・メイヤーをCEOに指名した。彼女は歯に衣着せぬ物言いで不振にあえぐ同社の強みと弱みを評価し、インターネット業界の巨人を復活させるという野心的な目標を打ち出した。しかし、各メディアはそれで十分に納得したわけではなく、「マリッサ・メイヤーはヤフーを救えるのか」と、『ニューヨーカー』誌、『ガーディアン』紙、『フォーチュン』誌が揃って疑問を投げかけた。

 それまでの4年間でヤフーの年間売上高は72億ドルから49億ドルに落ち込み、社員の士気は衰え、活気ある社風とはとても言いがたかった。端的に言えば、連敗記録を更新し続けていたのである。このように業績上の問題が山積する中でメイヤーが出した答えは、「ビッグフォー[注1]」と肩を並べる企業にヤフーを復活させるという目標を打ち上げることだった。「インターネット業界のシンボル的な存在を偉大な企業に甦らせる」というのだ。また、向こう5年間は毎年2桁台の成長を確保するという現実離れした目標に加えて、簡単には達成できない目標も8つ設定した。

 2016年の夏の時点で、メイヤーは8つの目標のうち6つを大きく下回り、2桁台の成長も実現できていなかった。売上高は49億ドル前後で横這いが続いていただけでなく、2015年には44億ドルの損失も計上した。また、2016年7月には通信大手のベライゾン・コミュニケーションズが経営不振のヤフーを買収することで合意した[注2]。これに伴い、メイヤーの大胆なプランは突然打ち切られることとなった。