イノベーションのジレンマに陥っていた

 ウォルマート・ストアーズは長年にわたり、顧客が何を望んでいるかを的確に把握してきたように思える。複雑な消費者解析法を構築してそこから得たデータを駆使する一方で、たえずサプライヤーに、にらみを利かせてきた。そうすることで同社は、ほぼありとあらゆる商品を最安値で販売する巨大な小売企業となった。

 やがてインターネットが登場した。すると、ウォルマートと同じように需要を追跡し予測する方法を、新興のライバル企業がたちどころに突き止めた。さらに、アマゾンをはじめeコマースの先駆者たちが急速に成長する中で疑問が生まれた。実店舗を運営する大手企業、それも米国だけで4600店も展開する企業は、成長どころか生き残ることすらできないのではないか、と。

 売上げが伸び悩み始めた2014年、ウォルマートの取締役会はCEOにダグ・マクミロンを起用した。同氏に託された課題は「店舗網を潰さずに未来に向かって踏み出せ」、という明快なものだった。