組織のビジョンとは、従業員がそれを理解し、行動に移すことで実現される。そのためには、トップから現場の一社員に至るまで組織内にビジョンへの共感がなければならない。一人一人が自身の行動に誇りとやりがいを感じる時、組織は強くなり、成長トレンドに乗る。そうした従業員の行動促進をもたらすための方策について、ゼロインの並河研副社長に聞いた。
企業文化をアップデートし
行動促進の基盤をつくる

並河 研
KEN NAMIKAWA
リクルート入社後、社内広報室で社内コミュニケーション施策や教育映像プログラムなどを数多くプロデュースした。その後ゼロインに入社し、さまざまな企業の組織活性化を手掛ける。2009年に取締役、14年に取締役副社長兼COOに就任。一般企業の社内コミュニケーション活性化のためのコンサルティング、経営ビジョンの構築・浸透のためのビジョンアワードやその基準設計、映像やイベントなど各施策のプロデュースを行なっている。
今、従業員のリテンション(人材定着施策)に重きを置く経営者が増えています。背景には、人材や働き方の多様化、また市場ニーズの多様化があります。顧客への価値提供、関係性強化には、従業員の持続的な成長や協働が欠かせません。そうした中で、組織と従業員、従業員同士、ビジョンと日常の仕事、社会と社内といった、間をつなぐコミュニケーションがこれまで以上に求められていると実感しています。
たとえば歴史ある企業では、四字熟語で表されるような理念を時に見かけます。その言葉自体が悪いわけではないのですが、今の若手にはピンとこない言葉かもしれません。また、ビジョンが抽象度の高い言葉だと、従業員は具体的な行動としてイメージできず、日常の仕事に結びつけていけません。今は社外に向けても企業の方針や存在意義を発信していかなくてはならない時代です。社会の変化に合わせて企業文化をアップデートして社内外に示し、共感を得ることが必要なのです。
従業員のエンゲージメントを高め、ビジョンの体現行動を促進するには、単発でコミュニケーション施策を企画・実行するだけでは十分ではありません。企業の文化・文脈と従業員一人一人を接続し続け、継続的かつ活発な情報流通や人材交流が生まれるような場やメディア、コンテンツの仕掛け、運用の仕組みなどを「コミュニケーション・プラットフォーム」としてデザインしていくことが重要です。

その際、企業統合や市場環境変化に伴うビジョン再構築といった組織が現在置かれている文脈や、トップダウン型といったそれまでの組織文化を無視してはうまくいきません。経営側は数多く発信しているつもりでも、現場に聞くと、ほとんど届いていない(覚えてない)ということも珍しくありません。日々接する情報量は加速度的に増え続けています。多くの部署からさまざまな情報が一貫性なく送られ、忙しい現場では見られなくなっていた例もあります。社内メディアを統廃合し再構築する、コミュニケーションテーマをシンボル化して各施策をつなぐ、経営の言葉ではなく現場の言葉に変換する、など従業員目線での構築が行動促進のポイントです。