個別指導で部下を導く

 クンダプール・ヴァマン・カマートは教師であった。しかし、学校で働いたことも、教壇に立ったこともない。その代わり、インドのICICI銀行の上級幹部として、後にCEOとして務め上げた40年の間に、配下で働く人たちに教えを授けてきた。利害関係者とのコミュニケーションのコツを教えたり、野心的な目標を持つことの重要性を説いたり、カマートは毎日を教育の機会ととらえ、直属の部下それぞれに合わせて誂えた、経営の特別授業を行っていた。

 この特別授業を続けるうちに、ICICI銀行は優秀な人材のリーダーシップ養成場となり、加速度的な成長を遂げた。インドで最も規模が大きく、最も革新的な銀行の一つとなり、同業界のある世代の経営幹部を丸ごと育て上げた功労者として、カマートは高く評価されるようになった。

 カマートのような世界的に第一級のリーダーは、通常のリーダーと、どのような点が異なるのだろうか。それを明らかにするために、筆者は10年以上の歳月を費やしてきた。大いに驚いたことの一つは、これらの最も優れたマネジャーたちの教育への打ち込みようだ。対面であれ、間接的手段であれ、彼らは日々の業務の中で直属の部下たちに一対一の徹底的な指導を続けてきた。認知心理学者や教師、教育コンサルタントの間では、昔からそのような個別指導の価値が認識されてきた。すなわち、能力やコンプライアンス意識を高めるだけではなく、スキルの習得や思考および行動の独立性を促すものであると。