-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
経営陣はIT戦略の責任を放棄している
情報の時代にあっては、最良の時は最悪の時でもある。コンピュータのハードウエアはより高速化し、より廉価に、よりポータブルになっている。一方、マッシュアップ(異なる技術やコンテンツを融合して、新しい製品やサービスをつくり出すこと)、ブログ、ウィキ(ネットワーク上のどこからでも文書を書き換えられるシステム)、ビジネス分析システムなどが、人々の心をとらえている。
企業のIT投資は2001年、急激に落ち込んだが、そこから力強く回復している。1987年、アメリカ企業のIT投資は従業員1人当たり1500ドルだった。
公に入手できる直近データは2004年のものだが、それによると、この金額は3倍以上に増え、5100ドルに達し、オフィス、倉庫や工場などの投資とほぼ同額に至っている。
その一方、ITの効用が大きく喧伝されるにつれて、マネジャーたちは圧倒され気味のようだ。現在、企業が直面している最大の課題の一つは、市場にあふれるITをどのように扱えばよいのかである。
経営陣にすれば、こうしたITシステムやアプリケーション、またそれらを示す頭文字(アクロニム)は何なのか、正確に理解するのは難しい。ましてや何を購入すべきかを決定したり、どうすればうまく導入できるかを判断したりするなど論外である。
実際、ほとんどのマネジャーが、変化し続ける技術の荒海を進んでいくだけの意欲も力量も自分にはないと感じている。そのため、ITにはできるだけ関わらないようにしている。
このような気後れの問題に加えて、これまでのITプロジェクトは期待外れの成果、失敗としか言いようのない結果に終わることが多かった。
端的な例を挙げると、アメリカのドラッグストア・チェーン、フォックスメイヤー・ドラッグはITプロジェクトに1億ドルを投じたが、つまずいてしまい、チャプター・イレブン(連邦破産法11章)を申請して、97年に売却された。昨今では、このような致命的なケースは以前ほど多くはないが、プロジェクトへのいらだちや遅れによる落胆が蔓延している。
2005年、ITコンサルティング会社のコンピュータ・サイエンスとファイナンシャル・エグゼクティブ・リサーチ・ファンデーションが、アメリカ企業における782人のIT担当幹部を対象に調査を実施したところ、回答者の50%は「ビジネスとIT戦略の整合性を図る」ことは大きな課題であると認めている。
この調査結果によると、大型ITプロジェクトの51%が予定より遅れ、予算をオーバーしていたことが判明している。また「IT ROIは高い」と考える企業は10%にすぎない。逆にIT ROIが低い、マイナスである、わからないと答えた企業が47%に達した。
このような状況にあって、執行役員会でIT投資やITプロジェクトが提案されるたびに、侃々諤々の議論が巻き起こるのも当然といえよう。「何だって、わざわざそんなことに悩まなければならないのか。ITは戦略と関係ない。市場競争という意味ではどうでもよいものだ。ITコストは最低限に抑えるべきだ」と言う人もいる。
一方「ITが重要かどうかは別として、社内でやるべきじゃありませんよ。企業のバーチャル・インテグレーションが進み、ソフトウエアもレンタルできるようになりつつあります。ならば、昔のようなやり方でITに投資する理由などないでしょう」と発言する人もいるだろう。