停滞する状況をどう打破するか

 2016年、スイス・ベルンを拠点とするスイスコムは、成熟産業の中で身動きが取れなくなった感があった。

 全世界の通信部門は業績が横ばいで、売上高は年にわずか1%アップ、利益と価格もほとんど伸びない状態だった。1960年代にダイヤル直通国際電話サービス、1990年代に2Gモバイルサービスを他社に先駆けて導入し、スイスのブロードバンド普及率世界一に貢献するなど、長年のイノベーションの実績を誇る120億ドル企業スイスコムも、やはり停滞状態にあった。

 CEOのウルス・シェッピをはじめとする経営陣は、デジタルテクノロジーによって変容する世界に応じた長期的成長戦略を練り上げる必要があるとわかっていたものの、今後の最善策については意見が分かれていた。成長が緩やかでも、効率化で利益を高めればよいと考える者もいれば、新しい市場へ思い切って攻め込むべきだと考える者もいた。「課題が共有されていたとは言いがたいです」と、あるリーダーは語っている。