「見えないサービス」はありがたみがない
バークレイズ銀行は1967年6月、世界で初めて有効に機能するATM(現金自動預払機)の営業をはなばなしく開始した。現金の預け払いを機械に任せたほうが、窓口係に担当させるより費用を抑えられるうえに効率的だ。しかも、顧客は銀行が閉まっていても、いつでもATMを利用できる。ATMは銀行と顧客の両方にメリットがあると思われ、瞬く間に世界中に普及した。今日では、ATMでの現金引き出しが窓口での引き出しの3倍に上っている。
しかし、ATMの成功物語には副作用がある。顧客がATMを多用し、窓口係と接することが少なくなると、銀行に対する総合的な満足度が低下する。つまり、サービス提供に伴う作業が見えないと、顧客はサービス提供にかけられる労力を過小評価するために、ありがたみも価値も見出さなくなることがわかったのだ。
ATMは実際には、複雑な業務をこなしている。顧客をしっかり確認して口座情報を調べたうえで、取引を正確に実行する。しかも、顧客の個人情報を守りながらあらゆる作業を行っている。しかし、ATMの「見事な手さばき」は硬い金属に覆われていて、顧客には「お取引を実行中です」という曖昧なメッセージしか見えない。すると顧客は、目の前で窓口係にサービスを提供してもらう時には当然とは見なさないのに、ATMのサービスは当たり前のことと受け止める。