中国酒ブランドの画期的なマーケティング手法
2017年、急成長中の中国酒ブランドの習酒は、旧正月に向けて売上増進を図るために、広告キャンペーンを打ちたいと考えていた。習酒が先進国市場に展開する欧米の大企業だったならば、同社のブランドマネジャーは何カ月も前に計画を立て始めていたことだろう。テレビ、オンライン、屋外広告に予算を割り当て、クリエイティブのやり方についてブレーンストーミングし、CM撮影に入る、というように。
しかし、習酒が取った母国市場へのアプローチはまったく異なっていた。中国で最も人気のあるニュースアプリ「テンセント・ニュース」を持つ騰訊(テンセント)と直接提携し、1時間のライブストリーミング番組シリーズを共同製作したのである。それは中国各地から集めた腕利きシェフが、習酒ブランドの商品を使いながら、地元の名物料理の調理法を視聴者に教えるという内容だった。そのネイティブ広告[注1]のコンテンツは、テンセントのニュース、ソーシャルメディア、エンタテインメント、ゲームプラットフォームのそれぞれで露出させ、毎日120万人以上の人が携帯電話経由でクリックした。
習酒とテンセントは、何カ月もかけてキャンペーンを入念に企画するのではなく、わずか5日間でコンテンツをつくり上げた。つまり、企画、交渉、クリエイティブ製作、番組放映までやり切ったのだ。しかも番組放映時には、価格プロモーションや酒類の値引きに関する言及はいっさいなかった。このキャンペーンはもっぱら、消費者のアウェアネス(認知度)とエンゲージメント(関与)の構築を狙っていたのである。