「取引的契約」から「関係的契約」へ

 デルは2005年、返品・修理プロセスの配送業務全般をフェデックスに委託することを決めた。両社は当初、従来通りの供給契約書を作成した。100ページ以上に及ぶ契約書には「供給者は……ものとする」という文章がずらりと並び、フェデックスが果たすべき義務を事細かに定めたほか、業務上の成果を測るデルの指標をいくつも列挙していた。

 フェデックスはその後10年近く、契約上の義務をすべて果たしていたが、双方ともこの契約関係に満足してはいなかった。デルの目には、みずから率先して改善を推進したり、革新的な問題解決に取り組んだりする自主性が、フェデックスに不足しているように見えた。一方でフェデックスは、面倒な条件のせいでリソースを無駄使いせざるをえず、厳しい業務指示書を盲目的に守らなければならないと不満を募らせていた。しかも、デルは8年の間に3回も委託業務を競争入札にかけるなど、コスト削減に余念がなく、フェデックスの利益は細る一方だった。

 契約8年目に入る頃、両社は限界を迎えていた。互いを信頼もしていなければ頼りにもしていなかったが、契約を解除する余裕はどちらにもなかった。デルの場合、他社に乗り換えようにもスイッチングコストが高く、フェデックスのほうは契約解除で失う収益を穴埋めできそうになかった。両社ともに報われない関係だったのである。