複雑性のメリットとコスト

 ビジネスにおける複雑性はメディアで酷評される。それは驚くに当たらない。相互につながった、多数のまったく異なる要素で構成されているシステムや組織が、実際にどう機能するかを理解することは、認知的に難しいのかもしれない。

 しかし、このように「システムや組織がわかりにくい」という事実があるからといって、本質的に悪いものだということではない。複雑性には、すぐ見て取れるコストもあるが、それに加えて、特にダイナミックで不確実な環境では極めて大きなメリットがあるのだ。本稿では、ビジネス、生物学、物理学における筆者らの経験や視点を踏まえながら、複雑性の性質、メリット、コストを考察し、企業組織でそれを管理するためのガイダンスを紹介する。

複雑性とは何か
そして、どう役立つのか

「複雑性」は最も頻出するビジネス用語の一つだが、最も曖昧な言葉でもある。科学で用いる時でさえ、非常に多くの定義がある。本稿の趣旨としては、相互に多様な「つながり」を持った多数の異なる「要素」(特定の技術、原材料、製品、人、組織単位など)と定義する。多様なつながりがあることも、多くの異なる要素があることも、管理のやり方次第で長所にも短所にもなりうる。