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研究されてこなかった
「防衛策」としてのマーケティング
一般に、マーケティングは成長のツールと考えられている。つまり、新製品の上市、新市場への進出、既存市場でのシェア拡大において、マーケティングは実践されるのだと。
しかし、ある企業がこのような成長戦略を展開するに当たって、必ずと言ってよいほど、この市場を牛耳っている「市場リーダー」の存在に遭遇する。この市場リーダーにすれば、既存の市場ポジションを維持しないと、将来の成長基盤を失ってしまう。
この市場ポジションは、規制緩和、特許の期限切れ、技術革新、ライバルの競争優位の変化など、さまざまな要因に大きく影響される。
攻撃としてのマーケティングについては、これまで数多の調査や研究が実施されてきたが、防御としてのマーケティングとなると驚くほど少ない。残念なことだが、その理由はわからないでもない。というのも、ニュー・カマーの攻撃を迎え撃つ市場リーダーに突きつけられる課題、とりわけマーケティングの場合、概して状況によって性質が異なるからである。
市場リーダーは顧客基盤を抱えている。これを裏返せば、逃がしたくない顧客を大勢抱えており、これら顧客の詳細情報を所有していることを意味する。当然のことながら、市場リーダーはこの顧客基盤を守らなければならない。かたやニュー・カマーは、対象市場において最も収益性の高いセグメントを狙って、儲かる顧客だけにアプローチできるという強みがある。
1990年代末、オーストラリアでも通信が自由化され、国営電話会社のテルストラは初めて競争に直面した。アメリカのベルサウスとイギリスのケーブル・アンド・ワイヤレスのジョイント・ベンチャー、ケーブル・アンド・ワイヤレス・オプタスが手強いライバルと目されていた。
このニュー・カマーの登場によって、テルストラは市場シェアの相当規模を失うだろうと予想された。そこで同社は、儲かる顧客を死守しつつ、かつオプタスの市場侵食のペースを遅らせることを狙った。
まさにこの目標を達成するために、テルストラは「防衛マーケティング」を採用した。競合サービスに消費者がどのように反応するのかを予測するモデル[注1]を用いて、さまざまな選択肢のなかから最終的にオプタスの攻撃力を弱体化させる戦略を選んだ。この防衛策をオプタスが操業を開始する前に導入した結果、当初の目的を何とか果たすことに成功した。