説明を受け、納得したうえで
個人情報を提供しているのか

 風刺サイトの「ジ・オニオン」は2015年、「同一の靴の広告から8つのウェブサイト上で追い回された女性」という見出しの記事を掲載した。架空の女性がどのサイトを訪れても同じ広告を目にしたというのである。記事中で彼女は「何より気味が悪いのは、広告主が私の足のサイズを知っているらしいことだわ」と語っている。この記事は、無神経であっても普及傾向にあるデジタルマーケティング手法を、揶揄していたのだ。

 しかし、いまとなっては、この記事のやんわりとしたユーモアは時代遅れに近い印象を受ける。最新テクノロジーは、ネット上で私たちを追いかけ回すCookie(クッキー)やリターゲティング広告よりも、格段に進化している。現在ではスマートフォンが利用者の物理的位置を追跡し、他者との距離を推測する。しかも最近の研究によって、利用者が機能をオフにしても、位置追跡は継続されることが判明している。ブラウザー上で追跡を止めることはできるが、それでも私たちの電子指紋はデバイス間で共有され、「現在地」の特定を可能にするのだ。

 アレクサなどのホームアシスタントは私たちの会話を聞いており、作動させると録音もする。バービー人形から医療機器に至るまで、身の回りの品が次々とインターネットにつながり、私たちの動向、嗜好、さらには健康に関する情報まで送受信する。今日のウェブサービスでは、情報を可能な限り収集して、顧客のターゲティングや説得、優遇または薄遇のために利用・販売するのが、主流のビジネスモデルとなっている。インターネット上では監視経済が広がっているのだ。