新型コロナウイルスの感染拡大は、我々の仕事においても、生活の面でもテクノロジーの重要性をあらためて浮き彫りにした。ポストコロナ時代においては、企業戦略とテクノロジーの結び付きが、これまで以上に深く、不可分なものとなっていくだろう。そのとき、経営者や企業に求められるケイパビリティ(組織的な能力・強み)とは何か。ネコとゾウ、カタツムリの教訓から考えたい。
テクノロジーは野良ネコ化する
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に伴う外出自粛や緊急事態宣言は、我々の住む世界を一変させ、街の様相や生活もガラリと変わった。
ビジネスの場においてはテレワークが急速に進んだ。クライアント企業からはバーチャルチームの管理についての相談が寄せられ、社内ではZoomやSkypeを使ったビデオ会議が急激に増えている。
慣れない働き方にストレスを感じている方も多いと想像する。そのような状況において若干意地悪ではあるが、あえて次のような問いを投げかけたい。
新型コロナの猛威に見舞われた状況下で、インターネットやPC(パソコン)をはじめとしたさまざまなテクノロジーがなかったら、我々の生活はどうなっていただろうか。
朝、スマートフォンを目覚まし代わりに起きたり、ニュースをチェックしたりすることはできない。PCを使ったドキュメントの作成も、メールの送信も、ビデオ会議も同様だ。仕事が終わってからゲームをしたり、ネットで映画を見たりして巣ごもり生活をエンジョイすることもできない。
ネットやPCが普及する前から仕事していた世代も、生まれた頃からネットや携帯電話を使うのが当たり前だった若い人たちにとっても、共通していえるのは「いま当たり前に使っているテクノロジーを取り上げられてしまったら、間違いなく途方に暮れる」ということではないだろうか。

シニアマネジャー
モニター デロイトにおいて「CEOアジェンダとしてのテクノロジー」「テクノロジーが経営戦略に与えるインパクト」などのテーマに取り組んでいる。20年弱過ごしたアメリカでの知見を基に「外から見た日本」という視点での見解も提供する。米デンバー大学テクノロジーマネジメント修士課程卒。
現状でもノートPCが重いとか、ネットの接続が切れる、業務ソフトの使い勝手が悪いなど、いろいろと不平はあるかもしれないが、それらがまったく使えないとなると、「ちょっと待ってくれ」となるはずだ。
テクノロジーは多くの人々の仕事を下支えしているだけでなく、消費者としての我々にも多くの恩恵を与えている。今日の危機下においても、さまざまなテクノロジーが人々の健康や生活を守るために活躍している。
すなわち、テクノロジーは我々とはもはや切っても切れない関係にある。それを前提として、経営者のこれからの大きなミッションは何かを問いかけた場合、テクノロジーを昨日よりもよりよく使い、明日の競争優位を築くことが最重要項目の1つであることは自明といえるだろう。
前述の通り、我々の社会はいまやテクノロジーなしには語れない。テクノロジーは我々を支えているどころか、我々の生活「そのもの」になりつつあると言っても過言ではない。
ジャングルや砂漠に住む民族、あるいは信仰上の理由からテレビや自動車などを持たないことで知られるアーミッシュでさえ、携帯電話を使ったり、ホームページを開設したりしているほど、デジタルテクノロジーはユビキタス(遍在する)なものとなっている。
しかし、そのユビキタスなテクノロジーが経営者にとってやっかいなところは、なかなか思い通りにならない点にある。そうした状況を筆者は、「テクノロジーは野良ネコ化する」と表現している。