失敗が許されない組織では
誰一人挑戦しない
では、どうすればイノベーションが生まれる組織風土を醸成できるのか。イノベーションとは、生み出されたアイデアが社内で承認され、ヒトモノカネの資源が投下され、生産ラインが作られ、顧客に商品が渡るまでのプロセスをいう。
「残念ながらアイデアソン、ハッカソンなどのイベント的なイノベーション支援だけでは、実を結ぶことはほとんどない。現場からいいアイデアが出て新規事業が立ち上がっても、役員会でつぶされるケースが非常に多いからです。それが起これば、生産ラインは動きません。私は、イノベーションの起きる組織風土をつくる際に何よりも大切なのは、トップ層、役員が率先垂範し、新規事業担当のリーダーとなることだと考えます」
その上で組織のハード面とソフト面を整えていくべきだと中原氏は言う(図1参照)。
組織のハード面とは、人事評価制度などの仕組み作りだ。「イノベーションは多くの失敗の先に生まれるものです。しかし、失敗が許されない組織では誰も挑戦しなくなってしまう。まずは、組織内で挑戦する人を評価する仕組みを整えることが重要です」。
新規事業への挑戦を評価する仕組みを整える際は、事業撤退を決める基準も明確にしておく必要がある。撤退ラインが曖昧なままだとやめるにやめられず、失敗による損失が拡大し、挑戦した人が責任を取らされることになる。
それでは挑戦しようという人は二度と現れない。挑戦する人が損をしない仕組みを整備することは、組織風土を変革する大きな推進力となる。
一方、じっくりと取り組まなければならないのが、組織風土そのものを変えていくソフト面へのアプローチだ。中原氏はイノベーションを生み出すための組織づくりのポイントとして「革新的な風土づくり」「心理的安全性」「シェアード・リーダーシップ」の3つを挙げる。
(1)革新的な風土づくり
「新しいものを生み出そうという革新的な風土があるかどうか。これは先ほど指摘したように役員の率先垂範があるかどうかが鍵となります」
(2)心理的安全性
「リスクを取って行動してもそのことで責められない、ということです。これはクリエイティビティの発揮に大きな影響があるといわれています」
(3)シェアード・リーダーシップ
「誰か1人がリーダーとしてチームを率いるのではなく、メンバーそれぞれが自らの強みを活かし、主体的にチームを前に進めていくリーダーシップの在り方が組織の創造性に影響を与えるといわれています」
一人一人が自分の強みを発揮し、新しいことを生み出そうとリスクを取って挑戦することを後押しする。このような組織となっていることが理想だが、残念ながら組織の状態というものは目に見えない。こうした目に見えない組織風土そのものにアプローチするのが、「組織開発」である。
組織開発には幾つかのアプローチがあるが、多くの企業で行われているのは、従業員サーベイなどによって組織の現状を「見える化」するものだ。
職場のメンバーが集まり、サーベイによってあぶり出された組織課題に向き合って本音で対話を行うことで、認識の違い、意識の差など相互の気付きを深めていく。その後、職場でどうしていくのか、行動計画を自分たちで決め、実行することで、主体的に職場を変えていく。「この見える化、対話、未来づくりの3つのサイクルを回していくのが組織開発です」(図2参照)。