パーパスの危機
この10年間で、「パーパス」が経営の合言葉になった。経営やリーダー論を題材とする新刊書籍のうち、パーパスをタイトルに含むものは2010年以降で400冊を超え、記事に至っては数千件に上る。それも無理はない。組織で働くなら、理性と感情に響く使命や事業理念を掲げる組織で働きたいと思う人は、ミレニアル世代に限らず多いのだ。
とはいっても、パーパスの定義に苦戦する企業は多い。ましてやパーパスを実践するとなれば、至難の業だ。一般的なパーパス・ステートメントを読んでみるといい。「選ばれる企業になる」とか「株主価値を最大化する」といった、とらえ所のないものばかりだ。そうしたステートメントには、事業を成功へと導く大事な何かが欠落している。実際にどんな事業を展開しているのか、どんな顧客に製品やサービスを提供しているのかがわからないのだ。
ほかにも、崇高ではあるが、具体性に欠ける志を掲げるステートメントもある。たとえば、「従業員の意欲をかき立て、日々、持ち味を最大限発揮してもらう」「パワフルな楽観的思考を広める」といった具合だ。これらも同じく、「会社が何のために存在しているのか」「顧客にどんな価値を提供しているのか」「その価値が自社にしか提供できないのはなぜか」といった問いには答えていない。