なぜデジタル戦略では
大博打に出てしまうのか

「貴社のデジタル戦略は」。このシンプルな問いは、しばしば伝統的企業のCEOをパニックに陥れる。CEOたちは、デジタルなテクノロジーやビジネスモデルが自社ビジネスの存続に関わる脅威をもたらすと考えている──もちろん、その考えは正しい。だが、このようなプレッシャーにさらされたCEOは、時として全財産を賭けた大博打に出る──これはたいてい間違いだ。

 典型的な例の一つが、多国籍通信サービス事業者のビオンである。2017年に実施した新規デジタルプラットフォーム導入プロジェクトは、アムステルダムからスタッフ100人、ロンドンオフィスからさらに100人ほどが関与する大規模なものだった。同社が構想したのは、ローカライズ済みの充実した体験やサービスをユーザーに提供したり、商業パートナー(マスターカードなど)の営業チャネルとして活用したりするためのモバイルアプリをつくることである。経営陣はこのプロジェクトを最優先課題と考えていた。

 しかし華々しく登場した同アプリに対する顧客の反応は鈍く、このアプリを軸に新たなエコシステムを構築するという計画は頓挫した。この失敗の結果、経営トップが同社を去り、レイオフが行われ、デジタル計画を試験プロジェクト段階まで後退させる基本回帰戦略が採用された。