グローバル企業の行動規範

 産業界における行動規範の歴史は長い。アメリカで事業を営む企業にとって、その遵守は不可欠である。2004年、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQは公開企業に行動規範の導入と開示を義務づけた。

 さらに、サーベンス・オクスリー法(SOX法)は有価証券の発行体に、経営陣が行動規範に従うこと、そしてその状況を開示することを、またこれを拒否する場合には、その理由を説明することを義務づけている。

 連邦裁判所によるガイドラインでも、有罪判決が下された企業の倫理規定やコンプライアンス(遵法義務)について判断する際、行動規範が導入されているかどうかを考慮するように指導しており、これによって罰金の軽重が変わる。

 そのほか、さまざまな法的分野において、行動規範にまつわる各種要件とその遵守を趣旨とした取り組みが活発化している。たとえばEPA(アメリカ環境保護局)は、環境関連違反への罰金を計算するに当たって、どれくらいコンプライアンスに努力を傾けているかどうかを考慮する。

 くわえて、アメリカの公開企業の半数以上が、また「フォーチュン500」にランキングされる企業の58%が本社を置いているデラウエア州[注1]衛平法裁判所も、コンプライアンスと報告制度を導入し、取締役会はこの責任を負うという、連邦裁判所のガイドラインに従っている。

 アメリカ国内の法規制のみならず、同様の取り組みが広がっている。いまや、企業活動には何らかの基準を設けるべきであるという声が世界各国で高まっている。実際、詐欺や贈収賄に始まり、過酷労働の強制、悪質な市場操作に至るまで、さまざまな不正行為が横行している。

 それゆえ、世界各国の業界団体、政府機関、投資家団体、営利機関、非営利機関、市民団体などが、企業活動を監視するガイドラインを提示している。たとえば、国連の「グローバル・コンパクト[注2]」や「グローバル・ビジネスに関する消費者宣言」(Consumer Charter for Global Business)などがある。また、欧州委員会は、企業に責任ある活動を促すうえで行動規範の有効性を訴え、企業に「ILO基本条約」と「OECD多国籍企業ガイドライン[注3]」の導入を推進している。

 ほかにも、香港の汚職摘発機関「香港廉政公署」、南アフリカの「コーポレート・ガバナンスに関するキング委員会」、ブラジルの「ブラジル・コーポレート・ガバナンス協会」、日本の首相直属機関「2002年度生活の質に関する諮問委員会」などが、行動規範の整備を勧告している。

 いまのところ、これらの行動規範は法的強制力を持たないが、企業活動の合法性に関するグローバル・スタンダードが形成されつつある。すなわち、営利活動における国際標準、いわゆる「企業と社会との契約」が認識されている。