B2B市場にB2Cマーケティングは通用しない

 逆説的に聞こえるかもしれないが、マーケティング戦略のせいで、ベンダーと法人顧客の間に溝が生まれることは少なくない。成功を収めるには、収益性の高い法人顧客の獲得と維持が必須なのは周知の事実である。

 ベンダーは「対象とすべき業種は何か」という角度から取り組む。そして、ターゲット顧客をセグメンテーションし、ブランド戦略やコミュニケーション戦術、各種営業ツールを導入する。このようなアプローチはB2C(対消費者)市場のプロモーションには効果的だろうが、むしろB2B(対法人顧客)市場では、法人顧客の獲得と維持を妨げる。

 B2C市場とB2B市場はまったく別物である。前者では、大量の消費者が同じような商品を望んでいる。個々の取引は小規模で、商品は大量生産される。商品価値は消費者の評価によって決まるため、ベンダーはブランド・マネジメントに力を入れる。また、営業のプロセスは短く、小売りがカギを握っている。販売は消費者を対象に展開される。

 一方、後者の場合、顧客の数はB2Cに比べて少なく、逆に取引規模は大きい。法人顧客は自社のニーズに見合った特注品や価格を要求することが多く、製品やサービスの価値は利用方法によって決まる。B2Bにおいて、ブランド力はあまり重要ではない。営業のプロセスは手間暇を要する複雑なもので、むろん小売りは関係ない。販売対象も製品のエンド・ユーザーとは限らない。にもかかわらず、ベンダーはやみくもにB2CマーケティングをB2Bに適用してしまい、結局期待した成果を上げられない。

 たとえば、典型的なB2Cマーケティングの一つに、顧客をその特徴や行動パターンによってセグメンテーションし、それぞれのセグメントに関連性の高い製品特性を伝えるというものがある。しかし、このアプローチはB2Bでは役に立たない。法人顧客の場合、製品の利用方法は異なるからである。

 また、産業資材、たとえばセメントやソーダ灰などは、製品特性によって差別化することは難しい。このような場合、顧客企業の唯一の関心は、どのベンダーから仕入れればいちばんコストを抑えられるかである。

 もう一つの典型的なB2Cマーケティングに、同じようなニーズを有する顧客をグループ化し、各グループを対象に宣伝活動を展開するというものがある。この手法もまたB2Bでは奏功しない。法人顧客の場合、前述のように機械や材料の利用方法が異なるばかりか、特別仕様を要求されることが多いからだ。顧客企業のほとんどに、その企業固有のニーズに見合った製品、数量、価格を用意しなければならない。つまり、顧客企業1社が一つのセグメントなのだ。

 しかし、このような「セグメント・オブ・ワン」という考え方は、いかなる市場であろうと、営業活動を高コストで非効率なものにする。そこでベンダーは、顧客企業ごとに直接自社が提供する価値を伝えなければならない。B2Bベンダーの場合、「当社の製品やサービスが優れている点はここです」と、製品やサービスの特性を訴えるのではなく、「当社の製品やサービスは御社の課題をこのように解決します」と優位性に基づいたアプローチを選択する必要がある。

 法人顧客も一社一社管理するのは難しいが、今日のB2B市場では必要不可欠である。たいていの業界では、1990年代のM&Aの波をくぐり抜けた一握りの大口顧客に、ベンダーたちは集中せざるをえない。さらに、各ベンダーはすでに、顧客基盤の高収益顧客層である少数の中規模な買い手に注力している。