サクセッション・プランはCEOまかせではいけない

 13世紀、ローマ教皇を選出する枢機卿会がクレメンス4世の後継者を決めるまでにほぼ3年の月日を要した。歴史上稀に見るほどに膠着したトップ人事となったわけだが、この状態を打破するために、教会関係者たちは投票権を有する枢機卿に差し入れる飲食物を徐々に減らし、最後はパンと水しか与えなかったという。幸いにして、先頃のベネディクト16世の選出は1週間足らずで決着し、現代の枢機卿にはそこまで過酷な動機づけは必要なかったようだ。

 さて、産業界におけるサクセッション・プラン(後継者育成計画)と社内のリーダー層育成に目を移すと、取締役会には13世紀のバチカンと同じくらいの切迫感が必要ではなかろうか。ただし、「彼らにもひもじい思いをさせよ」というわけではない。

 取締役会はもとより、後継者の選択・教育のほとんどをCEOと人事部門に任せ切りにしてきた。取締役たちがなおざりにしてきた理由は単純である。リーダー層の薄さが会計ミスや利益の逸失と同じくらい深刻な問題であるなどとは、つゆほどにも考えていないからだ。しかし、それは近視眼的な認識と言わざるをえない。

 取締役会や経営陣が、サクセッション・プランとリーダーの育成を優先順位の高い経営課題として認識していない企業では、優秀な人材の数が漸減していくか、時代遅れのスキルしか持ち合わせていない社員ばかり抱えるかのいずれかとなる。

 このような企業は、大改革が避けがたいような事態、たとえば経営スタイルや企業文化の異なる企業を買収・統合する、あるいは低廉なコスト構造を引っ提げた競合他社の出現によって自社の競争力の大前提について見直しを迫られるといった事態に、きわめて弱いものである。

 このような状況下で生き残るには、適材適所が欠かせない。しかし、取締役会をはじめ、CEOや経営陣がリーダー人材の育成を軽んじている企業では、間違った意思決定が下されやすい。なぜなら、まだ真価もはっきりしない、およそ適任とは言いがたいジュニア・マネジャーを昇進させざるをえないか、社外から経営者を招聘する状況に追い込まれる可能性が高いからである。特に社外の人材を登用した場合、その人物が会社の企業文化に適合できるとは限らない。

 一方、サクセッション・プランと次世代リーダーの育成を取締役会の重要課題と認識しているだけでなく、実際のアクション・プランに盛り込んで具体的な施策を実施している企業もある。我々はこの3年間、このような企業を対象に幅広いフィールド・ワークに取り組んできた。

 インタビュー調査を多数試み、実効性の高いリーダーシップ開発プログラムの立案と実施に関する方法について分析してきた。その結果、優れたリーダーシップ開発プログラムには、共通の特徴がいくつかあることが明らかとなった。

 まずリーダーシップ開発は、人事部門のお膳立ての下、場当たり的に取り組むものではなく、企業活動そのものに組み込まれていなければならない。取締役会を筆頭に経営陣が深く関与し、現場管理職の評価と昇進に当たって、このように全社的に取り組むことが特に考慮されている。