組織を超えたデータ接続がもたらす経済効果は、世界で3兆ドルともいわれる。この莫大な効果を現実のものとするには、サイロの中に閉じ込められたデータを解放する必要がある。その方法論として、先進企業が実践しているのが「データクラウド」である。世界4000社以上にクラウドデータプラットフォームを提供するSnowflakeの東條英俊氏が、データクラウド実践のポイントを解説する。

サイロ化したデータを自在につなげる

 これまで、企業の経営資源としてヒト・モノ・カネが重視されてきたが、現在はそれらと並んでデータも主要な経営資源となり、これをいかに活用するかが企業の生き残りやビジネスの成功において大きなカギを握るようになっている。この流れを加速しているのがテクノロジーの発展だ。

 近年はスマートフォン(スマホ)をはじめとするモバイルデバイスの普及、SNSの浸透、企業におけるIoT活用の広がりなどにより、さまざまな領域で膨大な量のデータが日々、生成されている。それらのデータを経営の意思決定や顧客価値創造に有効活用できるかどうかにより、企業の競争優位が大きく左右される。

 今日ではクラウドを使うことで、大量のデータを低コストで保管することが可能となった。そして、世界の先進企業では、クラウド上に置かれたそれらの多様なデータから、より多くの価値を生み出す「データクラウド」の実践が進んでいる。

東條英俊
HIDETOSHI TOJO
ワシントン大学大学院フォスタースクールにて経営学修士課程(MBA)修了。2010年日本マイクロソフトからマイクロソフト米国本社へ移籍し、欧米企業がデジタルを活用した業務改革を意欲的に進めている実情を目の当たりにする。帰国後はテクノロジーの活用提案を通じて、日本企業のデータドリブン経営、デジタル・トランスフォーメーションを支援する。2019年9月よりSnowflake日本代表。

 データクラウドとは、企業が持つデータを社内外のさまざまなデータとクラウド上で連携させ、透過的に分析することを可能にする方法論だ。これを実践することにより、自社のデータだけではわからなかったインサイト(洞察)を得ることができるようになり、企業は新たな打ち手を考えることができる。これがもたらす経済効果は極めて大きい。たとえば、マッキンゼー・アンド・カンパニーは、組織を超えたデータ接続がもたらす価値を3兆ドル(約315兆円)と試算している*。

*「Open data: Unlocking innovation and performance with liquid information」より。

 こうした経済価値の創出を阻んでいるのが、データのサイロ化だ。企業ごと、そして企業内の部門ごとに、異なるデータベースやアプリケーションにデータが保管されており、それぞれが独立したサイロの中にデータが閉じ込められた状態になっているのである。

 この問題を解決するのがデータクラウドだ。データクラウドを実践すれば、企業のデータがどのデータベースやアプリケーションの中にあっても、あるいはクラウドでもオンプレミス(自社保有・運用のシステム)でも、それらを一元的に管理・分析することができる。今日では、複数のクラウドインフラを使い分ける企業も増えているが、こうしたマルチクラウド環境にも容易に対応できる。