シスコやコマツなどのデータクラウド実践事例

 海外では、すでにさまざまな企業がデータクラウドの実践を通じた、データドリブン経営を進めている。

 たとえば、ネットワーク機器世界大手の米シスコシステムズは、世界中のサプライヤーとデータ連携を行い、サプライチェーン全体の効率化を図っている。

 具体的には、ある生産ロットの製品で不具合が見つかった場合、その原因が部品の製造過程にあるのか、製品の組立工程なのか、それとも物流工程にあるのかを、サプライチェーンに参画する各社のデータを横断的に分析して特定し、スピーディに問題解決に当たる。従来のようにトラブルが起きる都度、各社に依頼して調査を行ったり、各社の生産・物流データの提供を受けて調査したりしていたのでは、迅速な対応は難しい。同社はデータクラウドによって、製品の企画・開発から市場投入までの期間を短縮化することにも成功している。

 英国の大手スーパーマーケット、セインズベリーは、データクラウドによって新製品の迅速な投入を実現している。同社はプライベートブランド(PB)商品を積極的に展開するほか、eコマース(EC)にも力を入れている。多くの消費財メーカーと取引があり、店舗オペレーションや商品流通、PBの製造など、さまざまな業務で多数のサプライヤーと連携している。

 同社はデータクラウドによってそれらの企業との緊密なデータ連携を実現し、商品在庫や販売状況、ECサイト上での顧客の行動などをリアルタイムに把握。AIを活用したデータ分析の結果をサプライヤー各社と共有し、PB商品の迅速な開発や顧客サービスの改善などに役立てている。

 加えて、セインズベリーは在庫量の適正化でもデータクラウドを活用している。具体的には、スマホ向けアプリで消費者にクーポンを発行し、そのクーポンがどこで使われているかというトラッキング情報と、市場調査会社が提供する消費者の行動予測データ、気象情報会社が提供する気象予測データなどを横断的に分析。それらをもとにした行動予測にしたがって各店舗における商品の売上げを予測し、在庫量を適正化しているのだ。

 一方、建設機械大手コマツの米国法人であるコマツマイニングは、データクラウドで機器の故障予知を行っている。建設・鉱山機械が故障で稼働停止すると、建機のユーザー企業には多額の損失が発生する。そこで、コマツマイニングは自社のブルドーザーやショベルカー、掘削機といった大型建機に稼働情報を収集するためのセンサーを搭載。センサーから取得した情報をデータクラウド上に集めて分析し、故障予知を行うことで損失の発生を防いでいるのだ。

 新型コロナウイルス感染症対策として、データクラウドを活用している自治体の例もある。米カリフォルニア州では、関係機関に対する州内の感染者情報の提供や対応策の実施を迅速化するために、クラウドを介して民間企業や調査会社、医療機関、警察などのデータを連携。感染者情報、各病院の病床数、感染者のトラッキング情報、各地域で必要とされる支援などの情報を横断的に把握している。

 さらには、データクラウドを“データのマーケットプレース”として活用している企業もある。投資会社向けに各種の金融情報を提供しているファクトセット、住宅販売情報を提供しているジウ、新型コロナの感染状況に関する情報を提供しているスタースキーマなどの各社は、Snowflakeが運営するデータマーケットプレース(詳細は後述)でそれらのデータを販売している。米国のある保険会社は、これらのデータを購入してデータクラウド上で分析し、自社の保険商品の見直しや保険料の再設定、支払保険金の予測などを行っている。