価値創出につながるITアーキテクチャの4要件

 では、具体的に、ポストコロナを生き抜く企業のITアーキテクチャには、どんな機能が求められるのか。それは、①より顧客の近くからデータを収集・分析する力、②社内に蓄積した既存データを最大限に活用する力、③それらのデータを生かしてアジャイルにサービスを開発する力、④外部と簡単につながる力、の4つに集約できる。

 最初の「より顧客の近くからデータを収集・分析する力」を得るためには、IoT機器やセンサーなどのデバイス群から発生するビッグデータを収集・処理するIoT基盤が必要だ。ただし、いたずらに大量のデータを集めることは、コスト面でもセキュリティ面でもリスクが高い。デバイスに近い場所(エッジ)で収集したデータをその場で処理して即座にサービスに活用するのか、あるいはいったん中央に集約したデータをAIで解析してサービス向上のためのインサイトを得るか。目的に応じてアーキテクチャを適切にデザインする必要がある。

 2つ目に挙げた「社内に蓄積した既存データを最大限に活用する力」では、これまで多くの企業がさんざん逃げ続けてきた「レガシーシステムのモダナイゼーション(近代化)」という課題に正面から向き合う必要がある。
つまり、リスク回避という「守り」だけでなく、ビジネスを成功に導くという「攻め」の視点で本質的な改革を進める必要があるということだ。そのためには、メインフレーム上のプログラムやデータをクラウド上に移す「リプラットフォーム」で良しとせず、新しい情報技術の恩恵を十分に受けつつ、レガシーシステム内に眠るデジタル資産の活用も可能にする「次世代ERP基盤」の構築を目指す覚悟が要るだろう。

 3つ目は「データを生かしてアジャイルにサービスを開発する力」だ。多様なデータを活用できる環境を生かすには、それに基づいて新サービスを迅速に打ち出し、広げていける柔軟かつ迅速な開発基盤が必要になる。そのために重要なのが、開発と運用を一体化し(DevOps)、継続的デリバリーを可能にするプラットフォームエンジニアリング力といえる。

 そして最後は「外部と簡単につながる力」である。これは、端的に言えばAPI基盤の構築だ。GAFAやBATなどのメガプラットフォーマーはもちろん、イノベーティブなサービスで頭角を現したユニコーン企業は皆、他社が提供するAPIを積極的に活用して迅速にサービスを立ち上げている。外部のデータやアプリケーションを簡単につなぎ込むアーキテクチャなくして、価値ある顧客サービスを構築することはもはや不可能なのだ。

 これらITアーキテクチャの4つの要件はいずれも同様に重要であるが、4つの要件のうち、大きな盲点をはらんでいるのが、最後に示した「外部と簡単につながる力」だ。