
年功序列、終身雇用、社内限定のゼネラリスト育成など、優秀なデジタル人材を引きつけることに苦戦している日本型の人材システムが、日本企業のデジタル化を遅らせた要因の一つであることは論をまたない。しかし今、コロナショックがもたらしたビジネス環境の激変が、変革の大きなチャンスをもたらしている。このチャンスを生かすことができるか否かは、刻々と変化する状況に応じて、多様な人材を柔軟にキュレーションできる「タレント・エコシステム」構築の可否に左右される。その可能性と実現に向けたステップを探る。
最強のパーティーを組織せよ

Takashi Ono
HR Transformation領域の組織責任者を務める。人事・総務領域の機能・組織・業務・人材の変革について、HRテクノロジー、デジタルHR、BPR、RPA、チェンジマネジメントなどの観点からのコンサルティングを多数手掛ける。
デジタル・テクノロジーの進展がビジネスの在り方を大きく変え、スピードの面でも質の面でも市場の要求水準は高くなる一方だ。当然のことながら、企業経営においてもデジタル・テクノロジーの理解は欠かせない。もちろん、全ての経営者がイーロン・マスクのようなフルスタックエンジニアである必要はないが、少なくとも、価値創出につながる本質的な議論を現場と交わせるレベルのデジタルの素養を備え、専門性の高いタレントをオーケストレーションし、企業全体の価値最大化につながる意思決定をスピーディーに下し続けることは、デジタル化が進展する状況下において経営者に求められる最重要の役割の一つとなっている。つまり、ロールプレーイングゲームの主人公のごとく、戦士、魔法使い、僧侶、旅芸人といった異能のスペシャリストを集めて最強のパーティー(チーム)を組み、不確実性が増大する両極化の時代を乗り越えていく変革の旅に出なければならないのである。
まず変革のスタートラインに立つには、既存のマネジメントシステムが制度疲労を起こしていることを直視することが重要だ。これまで本シリーズでも繰り返し語られてきたように、デジタル化の進展によってビジネスにおける競争を「業界」のくびきから解き放つため、産業横断的に形成されるエコシステムがイノベーション揺籃の場となっている。この新たな世界で企業が持続的に成長するためには、より広範囲からタレントを調達し、組織に新たな視点、新たなスキル、新たなつながりを導入し続けなくてはならない。両極化の時代においては、一企業あるいは一部門に閉じたまま価値を生み出し続けることは不可能なのだ。
その実現のためには、事業の目的に応じて多様な人材を招集し、新たな価値を生み出す「人材のキュレーション」という新たなケイパビリティが必要となる。これまでの日本企業の組織運営においては、業界内の同質化競争に勝つための社内統制が重視されてきた。そのため人材採用においても、個人が有するスキルやタレントより、価値観も含めて自社カルチャーの「型」に合致するかどうかに重きがあった。日本企業の伝統的な人材マネジメントシステムも、こうして集められた均質な人材を統制するために最適化されており、1983~1994年に生まれたミレニアル世代や、さらにその下のZ世代(1995~2002年に生まれた世代)といったデジタルネイティブ、あるいは、自律志向の高いフリーランスやギグワーカーといった新たな働き手を活用するには適さない。ちまたでよくいわれることではあるが、雇用はメンバーシップ型からジョブ型へ、組織はピラミッド型からネットワーク型へ、マネジメントそのものの根本的な見直しが迫られているのだ。
目指すべきは、個々のタレントが自律的に動くことで、環境変化にスピーディーに対応できる「場」の形成だ。つまり、「タレント・エコシステム」と呼ぶべき一種の生態系づくりを志向すべきなのである(図表1)。それ故に、特定の課題解決のための特命チームとして部門横断的にメンバーを招集する「クロス・ファンクショナル・チーム」や、プロジェクト単位で期間限定のチームを組織する「プロジェクト型組織」の導入は、そのための現実的な解の一つといえるだろう。