地殻変動が進む組織マネジメント

田中公康:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 アソシエイトディレクター Deloitte Digital
Tomoyasu Tanaka

Digital HRとEmployee Experience領域のリーダーとして、デジタル時代に対応した働き方改革や組織・人材マネジメント変革などのプロジェクトを多数手掛ける。直近では、HRテック領域の新規サービス開発にも従事している。

 しかし、組織の在り方を根本的に変えることは口で言うほど簡単ではない。デロイトが世界119カ国の約1万人のビジネスパーソンを対象にした調査をまとめたレポート「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2019」によれば、回答者の多くが機能縦断型チームの導入は組織のパフォーマンス向上に役立つ、と肯定的に捉えているものの、実際に導入されたチームが「効率的に運営されている」と認識しているのはわずか8%と極めて低い。現場で革新的なチームが立ち上がったとしても、経営層において各部門の出身者がそれぞれの部門に関する権限を分割して握っていたら、マネジメントにおける縦割り構造も温存されてしまう。特に日本企業においては、こうしたしがらみによって改革が進まないという事態は起きがちだ。

 とはいえ、年功序列、終身雇用を前提にした日本型人材マネジメントがもはや時代にそぐわなくなってきていることは明らかだ。技術革新のスピードアップは、技術が陳腐化するサイクルも早め、過去の経験則はすぐに役に立たなくなってしまう。その状況下で、年功序列の評価体系を維持したままでは成果と評価のギャップは広がる一方である。雇用延長の流れに伴って、賃金カーブをフラット化しようとする企業も多いが、こうした施策は高齢者に逃げ切りを許す一方で、これまで成果に関係なく賃金が安く抑えられてきた若年層にとっては将来的な昇給すら期待できなくなることを意味し、若い世代の帰属意識をますます低下させてしまう。こうした事情は転職者にとっても同様だ。人材の流動性が低い日本においても、近年ようやく専門職を中心に転職のハードルが下がりつつあるが、内部公平性を重視して中途採用者の給与を生え抜き社員より低く抑えるような企業には、優秀な人材が転職してくるはずもない。

 そのような中、コロナショックによってリモートワークに代表されるデジタルベースの労働環境構築が半ば強制的に進んだことは、多くの企業に組織マネジメント変革の大きなきっかけを与えたといえる。非対面環境で人材をマネジメントするには、ジョブディスクリプションを明確に定義するなど、多かれ少なかれ自律・コミット型のマネジメントを行わざるを得ないからだ。また、リモートワークが当たり前になったことで、地方や海外在住者、あるいは子育てや介護などで働き方に制約のある人の活躍の場が広がったという話もよく聞かれるようになった。ジョブ型の働き方は、ダイバーシティとの親和性も高いのだ。

 ただし残念ながら、そのような受動的な動きだけでは本質的な変革は実現しない。ポストコロナに向けて私たちの元に寄せられる相談として「テレワーク環境で人材をどうマネジメントすれば良いか」という相談が大幅に増えていることもその表れだ。仕組みはなんとか導入したものの、うまく使いこなせない、という課題に多くの企業が直面しているのだ。

 きっかけは何であれ、組織や制度の形を変えることがデジタルトランスフォーメーションの大きな一歩となることは間違いないが、組織図を書き換え、ツールを導入しただけでは、それは端緒に就いたにすぎない。「デジタル組織」としての真の成熟は、構成員の意識や行動が変わってこそ始まるのであり、そのためには組織のカルチャーの変革が欠かせない。そしてそれこそが本丸であり、最大の難所なのである。