”D”Xから”d”Xへの変革をいかに実現するか

── 実際にdXを推進するためにはどのようなアプローチが有効でしょうか。

 すでに「デジタルトランスフォーメーション」と銘打った取り組みを推進している企業は多いと思います。しかし、ひと口にデジタルトランスフォーメーションといっても、その実態はさまざまです。まずはそれぞれの位置付けを明確化し、自社の取り組みの全体像を把握するところからスタートすべきだと考えます(図表)。

── 具体的にはどのように整理するのでしょうか。

 図表では多種多様な取り組みを大きく3つに分類しています。左側のAとBが「業務のトランスフォーメーション」、右側のCとDが「ビジネスのトランスフォーメーション」、一番下のEが「企業文化のトランスフォーメーション」です。

 まず「業務のトランスフォーメーション」ですが、これは既存業務を高度化、効率化するケイパビリティの獲得を目指すものです。RPAやAIを活用して社内業務の生産性を上げるような比較的単純で社内に閉じた取り組みはA、顧客や取引先を巻き込んでサプライチェーンをデジタルで再構築するような取り組みはBに位置付けます。

「ビジネスのトランスフォーメーション」は、ビジネスモデルの変革を目指すものです。その中でも、売り切り型からサブスクリプション型への転換のように、既存の事業ドメインを維持したままビジネスモデルを変える取り組みはC、今後の成長のドライバーになり得る新たなビジネスを立ち上げる場合はDです。

 また、全社的にdXを推進するためには企業カルチャーの見直しも重要な要素です。一人一人の働き方や組織間の連携の在り方が変革になじまない場合、まずはそこから変えなければdXどころではありません。こうした「企業文化のトランスフォーメーション」は、dX推進の土台となるものであり、目指す姿とのギャップが大きいからこそ、その必要性・重要性は国内でも強く認識されつつあります。

 このように整理すると、自社のdXの全体像が可視化され、バラバラに進めていた取り組みにどんな相乗効果が期待できるか、あるいはどこが手薄で、何を強化すべきかという俯瞰した議論が可能になります。デジタルトランスフォーメーションという語の定義や理解が統一されていない中で、経営のビューを統一する、あるいは自社なりの言葉で咀嚼してビジョンやプランに組み込んでいく上で、この全体像や俯瞰した議論は大いに役立ちます。