
これまで主に業界再編や事業のグローバル展開のための手段と考えられてきたM&Aが、コロナショックを機に役割を変えつつある。多様なプレーヤーが有機的につながり、社会に本当に求められているイノベーションを生み出すエコシステム構築に向けたアプローチとして捉え直されているのだ。こうした「イノベーション型のM&A」の増加は、ポストコロナの世界で顕在化する新たな社会課題の解決につながるだけでなく、多くの企業が時代に合わせて経営モデルをトランスフォーメーションするための大きなチャンスといえるのではないだろうか。

Yusuke Kamiyama M&A / Reorganization Japan Leader
抜本的な産業構造変革期を迎える日本企業に対しM&Aを用いたビジネスモデル変革の専門家として、また分離・統合など組織再編の専門家として、構想・設計・実行の全体を取りまとめる。近年は特にM&Aのみならず、CX(Corporate Transformation)を起点とした変革に力点を置く。
不確実性が増大する世界で求められる未来志向のM&A
2020年に世界を襲ったコロナショックは、不確実性をますます増大させ、予測不可能な世界に引きずり込んでいる。人々のライフスタイルや価値観は大きく変化し、企業も戦略の変更を余儀なくされた。今こそ業界内での「優劣の競い合い」に血道を上げるのではなく、真の顧客ニーズに立ち戻り、社会課題の解決に真摯に向き合うべきだ、と考えている経営者は多いことだろう。
M&Aの在り方も大きく変わろうとしている。これまでのように、既存事業のシェア拡大や、新市場の獲得を通じて競争力の強化を目指す「事業拡大型のM&A」から、自社が構想する未来像の実現を目指す「イノベーション型のM&A」への転換が進んでいるのだ。
自社の勢力拡大を志向するかつてのM&Aでは、「時間を買う」という論理の下、例えば「北米市場に進出して2000億円を売り上げる」といった目的があれば、すでに現地で実績のある企業を買収して即座に達成しようとしたし、価格が安いタイミングを見計らって、巨額の企業買収が突然決断されることも多かった。しかし、過去の成功事例やデータが役に立たないポストコロナの世界では、こうした方法を続けるのはあまりにリスクが高い。今こそ自社の存在意義(パーパス)を問い直し、既存ビジネスの時間軸を超えて未来を構想し、進むべき方向性を明らかにすることが重要なのだ。