「ストーリーの創造力」がキャリア転換を成功させる

 ある交流会に、リストラクチャリングによって解雇された元高給取りのシニア・マネジャーたちが集まり、これまで自分がやってきたこと、次なる目標について発表し合った。

 彼らは順番に立ち上がり、立派なキャリアと業務内容を年代順に並べた長いリストを読み上げた。その多くが、当たり前かもしれないが、最初についた仕事の話から始まったが、なかには出身地までさかのぼる人もいた。いずれも発表の内容は細部に及んでいた。

 自分の目標を語って落ちをつける前に、聴衆を退屈させることなく、制限時間の2分以内にプレゼンテーションを終えた人はほとんどいなかった。また、少々時間が余った人もいたが、自分が次に取り組みたいと考えている事柄については4つか5つ羅列するだけだった。

 これらのプレゼンテーションの途中には適宜、意見交換する時間が設けられたが、事実だけを述べた人の発言はあまり役に立たなかった。自分の知識と人脈がどのように関係しているのか、一度聞いただけではわかるはずもなかったからだ。しかも、彼らには一生懸命に語ろうとする真剣さも感じられなかった。

 我々は、キャリアの見直しに関する研究と指導に従事している。そのなかで、自分が次に何をしたいのか、なぜ変化が必要なのかを説明できない人々をたくさん目にしてきた。また、一人はドラスティックにキャリアを転換させたケースについて研究し、もう一人は組織や個人と協力しながら、ストーリーの活用に取り組んできた。ストーリーは自己変革に前向きに取り組ませるうえできわめて効果的である。

 我々はさまざまな交流会に参加し、冒頭に紹介したような例がけっして稀ではないことを知った。一方、重大な転機にこれまでの人脈を有効活用し、見事に支持者を獲得した例もたくさん知っている。このような経験から理解したことは、ほかの何よりも大切な要素が一つ存在するということだ。すなわち「ストーリーの創造力」である。

なぜストーリー・テリングが必要なのか

 自分のストーリーを語り、そのストーリーがその人の個性を規定する。だれかを理解することは、その人のストーリー、すなわち人格を形成してきた経験や乗り越えてきた試練、転機を知ることにほかならない。だれかに自分のことをわかってほしい時、人は自分の幼年期や家族、学生時代、初恋、政治への関心の芽生えなど、さまざまなストーリーを語る。

 Aという状況に未練を残しながらBという状況へ向かおうとしているが、必ずしもそこに到達していないといった、キャリアの転機にある時、何より必要とされるのがストーリーである。