データベースの会社というイメージが強いオラクル。だが、日本において、2020年末には新しく「顧客のDXを推進する、Trusted Technology Advisorになる」というビジョンを掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)に挑戦する企業のサポートを強化する方針を打ち出している。具体的には顧客体験向上、人事、会計、サプライチェーンマネジメントなど、自社で提供するさまざまなSaaS製品で顧客である企業を支援するということだが、実はオラクル自身がこれらの製品を導入したことで大きなビジネス成果を得ている。その一連の取り組みが「Oracle@Oracle」(オラクル アット オラクル)と呼ばれるグローバルイニシアティブだ。日本での責任者を務め、これまでのオラクルの変革ジャーニーを最もよく知る、日本オラクル 取締役 執行役 副社長 最高執行責任者(COO)の湊宏司氏に、DXに取り組む企業に向けて自社が得た成果、そして経験からの学びについて聞いた。

2012年から取り組む「クラウドの会社」への変革

日本オラクル
取締役 執行役 副社長 最高執行責任者(COO)
湊 宏司
KOJI MINATO
1994年、日本電信電話入社。NTTコムウェアを経て2008年にサン・マイクロシステムズに移り、サポートサービス事業オペレーション本部長を務める。2010年に買収によってオラクルに入社。執行役員 社長室長、専務執行役員 ストラテジー&オペレーション統括、執行役 副社長 最高執行責任者(COO)などを歴任し、2019年8月から現職。

 米オラクルは年間売上390億ドル、日本を含む全世界175カ国に顧客を抱え、その数は43万社に上る。従業員数も13万6000人の超大企業である。これだけの規模のビジネスを支える社内システムを全てSaaSに置き換えるともなれば、周到な実行計画が必要だ。

 オラクルは2012年から10年近くこの超巨大プロジェクトに取り組んできた。湊氏によれば、その取り組みは「第1段階:基礎になるデータモデルを統一する」「第2段階:すぐに成果が得られる周辺業務のアプリケーションからSaaSに置き換える」「第3段階:コア業務のアプリケーションをSaaSに置き換える」の3ステップで進められたという(図1)。

 そもそもビジネスアプリケーションシステムの構築には2つのアプローチがある。1つがビジネスプロセスに着目してシステムを構築する「プロセスドリブン」、もう1つがデータに着目してビジネスプロセスを実行するシステムを構築する「データドリブン」である。

 プロセスドリブンの問題は、システムごとにデータの分断を作り込む懸念があることだ。同じ顧客であるにもかかわらず、取引先コードが米国と日本で違っていたり、営業と会計で違っていたりすることが頻繁に起こる。オラクルは創業以来、データベースが主力事業であったため、「データマネジメント」の知見を豊富に持つ会社である。データの生成、蓄積、流通、活用をいかに効率的にかつ安全に実施するかを得意としている。だからこそ、オンプレミス環境で構築してきたシステムをクラウド環境に全面移行するにあたり、データモデルの統一から着手したのだ。

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図1:3ステップで進めてきた社内システムのSaaSシフト

 第2段階は周辺業務、第3段階でコア業務の順でSaaSに移行したが、「これは逆でも良かった」と湊氏は振り返る。グローバル企業の全システムをSaaSにするという前例のない挑戦であったため、リスクを避けて周辺業務を先としたが、コア業務からの方がビジネスインパクトは大きい。今のオラクルならば、成果で得た経験とノウハウを基に、より大きなビジネスインパクトを生み出す投資をサポートできるという。