新型コロナウイルス感染拡大による在宅勤務の常態化で、日本企業には改めて「働き方改革」へのより踏み込んだ取り組みが求められている。他社にさきがけ2014年から働き方の改革を進めてきたカゴメの竹内秋徳執行役員(カゴメアクシス代表取締役社長)と、SaaS(Software as a Service)型の働き方改革プラットフォーム「TeamSpirit」を開発・提供するチームスピリットの荻島浩司代表取締役社長が、真の生産性向上とイノベーション創造につながる働き方改革について語り合った。

働き方の改革は、個人が幸せに生きるための「生き方改革」の一環

荻島 政府が働き方改革実現会議を発足させたのが2016年、働き方改革関連法案が国会に提出されたのは2018年ですが、カゴメでは2014年という早い時期から働き方改革を進めてこられました。どんな経緯だったのでしょうか。

竹内 きっかけは業績の伸び悩みです。会社のためによかれと思って新たな仕事を始めるのですが、既存の業務はそのままなので残業が増え、コストが膨らむという悪循環に陥っているという問題意識がありました。

 そこで、2014年に業務改革室を立ち上げ、部門の壁を超えて横の連携ができるような組織体制の整備などを行った後、2016年度からスタートした中期経営計画で、働き方の改革と収益構造改革を二本柱に据えました。

荻島 グループの財務・経理や総務、情報システムなどの業務を受託するカゴメアクシスが事業を始めたのも2016年ですね。

竹内 働き方の改革と収益構造の改革を実現するために立ち上げたのが、カゴメアクシスです。たとえば、総務部門は事業所ごとにありましたが、同じ総務でも、それぞれの現場に最適化された形で業務を行っていました。そのままでは、グループ全体としての標準化や最適化が進まないと考え、バックオフィス業務をカゴメアクシスに集約し、最も効率的なやり方に統一することにしたのです。

カゴメ執行役員
カゴメアクシス代表取締役社長
竹内秋徳

荻島 働き方改革では、長時間労働の是正が一つの焦点になりますが、カゴメグループでは、どのように進めていらっしゃいますか。

竹内 2014年から午後8時以降の残業を原則禁止とし、17年にスケジューラー(スケジュール管理ソフト)登録方法に関する全社統一ルールを制定、18年度にはすべての社員の年間総労働時間を1800時間以下にするという目標を定めました。

 カゴメグループでは、働き方の改革は個人が幸せに生きるための「生き方改革」の一環であると考えています。

 一般的な働き方の改革は、関連法の順守など会社都合で進められることも多いですが、労働時間を減らしたり、有給休暇の取得率が上がったりしても、個人の生活の質が高まらなければ、従業員は幸せを感じられません。会社が働き方を改革し、個人は暮らし方を改革していく、その掛け合わせが生き方改革になるというのが、私たちの考え方です。

 会社で使いすぎていた時間を個人が生活者として使う時間に振り向ける、つまり、個人の「可処分時間」を増やす。その時間で、社会とのつながりを持ったり、新しいことを学んだり、個人がより充実した人生を送り、生き生きと働けるようにもなるという循環をつくり出したいと考えています。

荻島 本質的な取り組みですね。働き方改革では、労働生産性の向上も重要な焦点になります。労働生産性は労働投入量を分母とし、付加価値を分子とする式によって導き出されますが、国内では分母である労働時間や労働人員を減らすことに議論が集中しがちなことを、私は懸念しています。分母を減らすことが目的になると、目先の仕事を効率的に処理することが優先されて、分子の付加価値を生むための時間が軽視されてしまうからです。

 スティーブン・R. コヴィーの著書『7つの習慣』では、重要度が高く、緊急度が低いものに使う時間を「第二領域」(質の高い領域)と呼んでいます。将来のビジョン策定や人間関係の構築、自己啓発を行い、創造性を育むための時間です。仕事の中にも第二領域的な「緊急ではないが重要」なものがあり、そこに時間を使わなければ付加価値を高めることはできません。