デジタル化とグローバル化のなかで

 いま私の手元にある1台のデジタルカメラの話から始めたい。〈ルミックスFX7〉という、昨2004年8月に発売したモデルである。このカメラを私はどこに出かけるにも携行し、お会いした方々のスナップや国内外で訪れた街角の風景などを撮影して残しており、言わば「写真日記」として活用している。

 記録メディアには1ギガバイトのSDメモリー・カードを使用しており、500万画素の高精細撮影(ファインモード)で400枚近く撮影できる。薄型軽量のコンパクト・サイズながら見やすい2.5インチの大画面液晶で、どなたにでも簡単に撮影できる手ぶれ補正機能がついている。発売直後からモデル別ナンバー・ワンの人気を続けるヒット商品となった。

 このデジタルカメラを紹介するのは、単に私の愛用品だからではない。デジタル時代の象徴的な商品であり、我々が目指すものづくり、極言すれば日本のものづくりに求められる数々の要素を備えているからだ。

 なかでも、当社が製品づくりのうえで重視している「ほかにない独自技術」──社内では「ブラックボックス技術」と呼んでいる──が盛り込まれていることがポイントだ。その一つが、光学式手ぶれ補正技術であり、非球面レンズや新画像処理用半導体〈ビーナスエンジン〉などもそれに当てはまる。

 いずれも開発から実用化まで長い期間を経ているが、特に光学式手ぶれ補正技術は、発明表彰の最高の賞である「恩賜発明賞」を2003年に受賞した画期的なものだ。ビデオムービーへの応用をはじめ、いまでは当社のすべてのデジタルカメラに搭載されており、〈ルミックスFX7〉ヒットの原動力ともなった。

 当社は、1990年代の半ば、デジタルカメラの黎明期に複数の事業部から何種類かのモデルを投入したが、まさに経営資源の分散と重複の典型といえる商品企画で、結局成功に至らず、撤退を余儀なくされた。

 しかし、デジタルカメラは本格的なデジタル化時代を迎えるなかで必要不可欠の製品であり、またレンズ技術やさまざまな映像処理回路技術など、当社の強い要素技術の蓄積を生かせる製品である。そこで2001年に全社プロジェクトを発足させ、複数の事業部に分散していた関連技術者を一堂に集めて開発を進める一方、卓越した光学技術を誇るドイツのカメラ・メーカー、ライカと協業して製品化し、再参入を果たした。言わば最後発組である。

 いまやデジタルカメラ市場は常に100モデル以上が店頭に並び、2、3カ月でヒット商品が入れ変わる激戦市場であるが、それがわずか3年でモデル別ナンバー・ワンに躍り出られたことに、デジタル時代の競争の姿を目の当たりにした感がある。