ダイヤモンド社では去る3月11日、DIAMONDビジネスフォーラム「世界標準の経営理論と“DXの実践”」をオンラインで開催した。早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)の入山章栄教授らの基調講演のほか、ベイカレント・コンサルティング常務執行役員 CDOの則武譲二氏らによる講演などが行われた。本稿では当日のプログラムの中から、則武氏の講演、および則武氏と入山教授の対談の内容を要約して紹介する。

デジタル部門は最終的に
他部門との融合に至る
「デジタル部門は時限組織」と題した講演の冒頭で、ベイカレント・コンサルティング(以下ベイカレント)の則武譲二氏は、「デジタル組織というと、独立したデジタル部門を思い浮かべますが、独立したデジタル部門は、DX組織形態の通過点の一つに過ぎないかもしれません」と切り出した。そう考えるのは、デジタル部門を他部門と融合させる動きが出てきたからだ。
たとえば、三菱UFJ銀行はデジタル部門と顧客部門の一部(リテール中心)を、ベネッセコーポレーションやアフラック生命保険はデジタル部門とIT部門をそれぞれ融合させることを公表している。
則武氏は、「デジタル部門は最終的には他部門との融合に至るもの」と考える。デジタル部門の立ち上がり当初は、クイックウィン(早期の成果)が望めるデジタル施策に注力し、各事業部門と連携しながら初期のインパクトを刈り取っていく。そして、局所的な成功を全社的な取り組みに広げていく段階でデジタル部門の拡充を図るが、多くのケースではそこで根深い組織的課題が立ちはだかり、停滞と拡充を行きつ戻りつすることになる。
根深い課題の解決にデジタル部門が単独で取り組むには限界があるため、それを打破するには他部門との融合を図ることが有効な一手となりうるのだ。
立ちふさがる根深い課題としては、たとえば次のようなものがある。事業部門Aは既存のビジネスモデルに固執する、事業部門Bでは効率性・柔軟性に欠けるレガシーシステムが変革の障害となっている、事業部門Cでは着実なオペレーションへの過度なこだわりがあってデジタルを敬遠する、といった課題だ。
こうした課題に対して、デジタル部門が新しいビジネスモデルを提案したり、システム改修を依頼したり、あるいはデジタル活用の必要性を訴えたりしても、解決に向けてなかなか社内が動かないのが実情だ。
かくして、事業ごとのデジタル変革は踊り場に差しかかる。「踊り場を脱し、その先にある右肩上がりのカーブを勝ち取るには、根深い課題を乗り越えて、ビジネスモデルを進化させる必要があります」と則武氏は説明する。
このときに重要になるのは、以下の2点である。
①どの事業において踊り場の先にあるインパクトに狙いを定めるか。
②その踊り場を脱するために、デジタル部門をどの部門と融合させるか。
この2つの論点に対するベイカレントとしての仮説について、則武氏はこう述べる。
「DXは企業の目的ではありません。企業は自身の戦略を実現するために、デジタル技術を活用し、DXを図るわけです。①のどの事業を改革していくかを考える際には、企業戦略に結びつく事業ポートフォリオマネジメント上、最も重要な事業に狙いを定めることが肝要です」
狙いを定める事業としては、たとえば、ディスラプターが競合として新規参入し、ビジネスモデル転換が求められているスター(花形)事業や、収益性が低下しつつあるキャッシュカウ(金のなる木)事業が挙げられる。
②のどの部門とデジタル部門を融合させるかについては、「①の論点で定めた事業が目指す、デジタル変革のモードに合わせて融合先を選択することがポイントであり、デジタルインテグレーション(DI)を目指すならばIT部門、DXを目指すなら事業部門と融合させることが得策だと考えます」と則武氏は言う。