クラウドサービスなどサブスクリプション型のビジネスを展開するネット企業で重視されてきた「カスタマーサクセス」という考え方が、一般企業にも広がりつつある。「顧客の成功」をビジネスの目的とするカスタマーサクセスがなぜ注目されているのか。従来のCRMとの違い、もたらすメリット、実現のための取り組み方法を考えてみたい。

顧客が求めているのは
課題の解決である

兵庫県立大学
川上昌直
国際商経学部 教授
博士(経営学)。1974年大阪生まれ。2012年兵庫県立大学教授。専門はビジネスモデル、マネタイズ。「現場で使える経営ロジック」を体系付け、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。著書に、継続課金モデルの実体を解明した『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)など多数

 カスタマーサクセスでは、ビジネスの目的の第一に「顧客の成功」が掲げられる。いうまでもなく、顧客が存在しなければビジネスは成立しない。日本企業の多くは以前から顧客満足度を重視してきており、そのためにCRM(Customer Relationship Management)システムを導入している企業も多いが、どう違うのだろうか。

 兵庫県立大学教授の川上昌直氏は、「顧客満足とカスタマーサクセスでは、ゴールの設定が異なるのです」と指摘する。つまり、顧客が製品やサービスを購入して終わりではなく、その先の問題(ジョブ)解決がゴールとなる。

 じつは、この考え方は新しいものではない。“マーケティング界のドラッカー”と言われた経営学者のセオドア・レビットは50年前に「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」と唱えていた。顧客が求めているのは、自分が抱える課題を解決することであり、言い換えれば“成功”である。

 川上氏は「この考え方はBtoBではわかりやすいでしょう。相手先の生産性向上という目的を共有しているからです。BtoCでも基本は同じです。消費者は自分の生活をアップデートするためにモノを買っています。たとえば、洗濯機は生活環境を効率良く清潔に保つために買うのです。このビフォアとアフターの差分にお金を払っているわけです」と語る。

 この考え方があらためて注目される背景にあるのが、デジタルの進化だ。洗濯機にセンサーを付けて情報を収集すれば、利用している頻度や時間を把握できる。通信機能を付ければリアルタイムに状況がわかる。それをビジネスチャンスと捉えることが、企業としての業績向上につながるのだ。