わずか8カ月でワクチンを開発

 新型コロナウイルス感染症が世界を席巻しつつあった2020年3月19日、私はファイザーの全社員に「不可能を可能にしよう」とあえて挑戦的な課題を与えた。──いままで誰にもできなかったほどのスピードでワクチンを開発しよう。できれば6カ月以内、遅くとも年内に──と。当社のパートナー企業で、がんの免疫療法に特化しているドイツのビオンテックでも、CEOのウール・シャヒンが部下たちに同じことを提案していた。

 それから8カ月弱を経た2020年11月8日の日曜日、当社の研究員、科学者、臨床試験担当者、製造担当者、物流担当者たちが力を合わせてこの目標を達成できたのかどうか、その結果を知るために私と数人の幹部が集合した。この日、中立の立場にある外部データモニタリング委員会がオンライン会議を行い、我々が進めてきたワクチン臨床試験の被験者データの中間結果についてレビューを行うことになっていた。

 この臨床試験は二重盲検法というやり方で、被験者のうち誰が本物のワクチンを接種し、誰が偽薬(プラシーボ)なのか、うちの研究員も臨床試験の検査員も被験者自身も知らないまま行われていた。したがって私と幹部たちは、データモニタリング機関の判断が次の3つのいずれでもいいように心の準備をしていた。その1、実験は失敗なので臨床試験を中止。その2、中間結果のデータでは結論が下せないので臨床試験を継続。その3、ワクチンは有効かつ安全なので、臨床試験を継続しつつ速やかに緊急使用許可を当局に申請──。