新型コロナウイルスの感染拡大により、デジタル技術の導入・活用がビジネスの継続性の点でも、競争優位の構築という観点からもますます重要になっている。SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)をはじめとしたクラウドサービスなどを導入することで、デジタルシフトに取り組む企業が増えているが、パフォーマンスとセキュリティの課題が顕在化している。SaaS活用を加速させるためにはネットワークセキュリティ環境を次世代型にシフトさせる必要がある。

そのシフトをどのように進めていくべきか。IIJグローバルソリューションズの岩澤利典社長とCato Networksの田島弘介カントリーマネージャーに聞いた。

人の移動が制限されたことで、
デジタルシフトがより緊急性の高い課題となった

――新型コロナウイルスの感染拡大で、企業および社会のデジタルシフトの重要性が改めて広く認識されました。通信ネットワークやICT環境の整備を支援しているお立場から、日本企業のデジタルシフトの状況をどうご覧になっていますか。

岩澤 Eコマースへの対応やオンライン会議システムの導入などが急速に進んでいることに象徴されるように、コロナ禍をきっかけに日本企業の間でデジタルシフトが進展していることは間違いありません。

 ただ、アジアの国々に目を向けると、中国ではアリババグループの「Alipay(支付宝)」やテンセントの「WeChat Pay(微信支付)」が何年も前から広く普及していましたし、東南アジアでは配車サービスから始まったシンガポールのグラブやインドネシアのゴジェックが、さまざまなサービスを提供するスーパーアプリとして発展を遂げています。

IIJグローバルソリューションズ
代表取締役社長
岩澤利典氏

 欧米先進企業は言うに及ばず、こうしたアジアの国々と比べても日本のデジタルシフトは後れを取っていると言わざるを得ず、経営者の一人として強い危機感を持っています。

田島 当社はイスラエル発祥で、世界中に構築されたPoP(アクセスポイント)とグローバルなバックボーン(基幹通信網)、ネットワークセキュリティをクラウドに一元化したプラットフォーム「Cato Cloud」を提供しており、世界で900社以上が導入し、1万カ所を超える拠点で利用されています。

 日本でもCato Cloudを導入する企業が増えており、全ユーザーの1割ほどが日系企業(海外グループ会社を含む)となっています。特にコロナ禍が始まってからは、リモートアクセス時のネットワークのパフォーマンス(転送時間や安定性など)やセキュリティを確保するために、Cato Cloudを導入される日系企業が増えました。特に昨年は従業員の方々の勤務形態の変更に迅速に対応するため、クラウドベースのリモートアクセス環境を整備される企業が増加し、国内でもすでに数万人が利用されています。

岩澤 コロナ禍で一時停滞していたグローバルな企業活動が、ここにきて再始動しています。とはいえ、人の移動はまだ制限されていますから、日本にいながら海外市場のニーズの変化や海外生産拠点の稼働状況などをリアルタイムに捉え、迅速な意思決定をしなくてはなりません。ですから、海外で事業展開する企業にとって、デジタルシフトの重要性はこれまで以上に高まっていると言えます。

 それに加えて、以前から指摘されてきたことですが、日本では社内の部門ごと、あるいはグループ内の企業ごとに個別のシステムやデータベースが構築されていて、企業グループ全体でのデータ連携ができていないことが多いのが実情です。これでは、重要な経営資源であるデータを十分に活用することができず、デジタル時代の競争優位を築くことができません。その点からも、デジタルシフトによるスムーズなデータ連携が必須課題となっています。

田島 ビジネスの拡大や生産性向上を目的にさまざまなSaaSやIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)を利用する企業が増えていますが、それらを高速で安定的に、かつ安全に使える環境が整っていないと、本来の目的を達することはできません。

Cato Networks
カントリーマネージャー
田島弘介氏

 また、グローバル企業の場合には本社だけでなく、海外の各拠点やリモートでも同じように高速で安全な環境を整備しておかないと、岩澤さんがおっしゃったように迅速な意思決定ができないということになってしまいます。